第5話 備蓄と消費
朝、俺は目を覚ますと、いつものように【NISSIN】を確認した。
『生成可能商品:カップヌードル』
『本日の生成可能回数:5/5』
「……五個」
思わず声が出た。
昨日までは四個だった。
それが今日は五個になっている。
俺はすぐに机の引き出しから、これまでの記録を書いた紙を取り出した。
――一個。
――約一週間。
――二個。
――四日。
――三個。
――二日。
――四個。
――二日。
――五個。
「やっぱり早くなってる」
最初の一個から二個になるまでには、一週間ほどかかった。
二個から三個になるまでは四日。
三個から四個になるまでは二日。
そして四個から五個になるまでも二日。
少なくとも、成長するまでの期間が長くなっているわけではない。
むしろ、最初と比べれば明らかに短くなっている。
「このままいけば、次はもっと早くなるのか?」
俺は紙を見ながら考える。
もしかすると、五個から六個になるまでには一日しかかからないかもしれない。
そう思うと、少しだけ楽しみになってきた。
だが、同時に一つ問題もあった。
五個。
俺たち家族は四人だ。
つまり、どうやっても一個余る。
「……まあ、一個くらいならいいか」
俺はそう考え、いつものようにカップヌードルを生成した。
「……出てこい」
ぽんっ。
一つ目。
「もう一個」
ぽんっ。
二つ目。
「三つ目」
ぽんっ。
「四つ目」
ぽんっ。
そして最後に、
「これで五個」
ぽんっ。
机の上に、五つのカップヌードルが並んだ。
◇◇◇
「おはよう、モフク」
母が朝食の準備をしながらこちらを見る。
「今日は……五つ?」
アリアもすぐに気づいた。
「昨日は四つだったよね?」
「うん。今日から五つ」
「五つ!」
アリアが嬉しそうに声を上げる。
「じゃあ、一人一個食べても余るね」
「そうなるな」
父も五つのカップヌードルを眺める。
「いよいよ家族だけじゃ食べきれない数になったか」
「うん」
俺は頷いた。
「だから、一個は取っておこうと思う」
「それがいいわね」
母も賛成してくれた。
カップヌードルは保存できる。
今日食べなくても困るものではない。
俺たちは四つだけを食卓へ運び、残った一つは棚に置いておくことにした。
「じゃあ、お湯を入れるね」
いつものように水魔法で水を用意し、火魔法で温める。
「相変わらず見事だな」
父が笑う。
「毎日やってるからね」
「それでも便利なものだ」
四つのカップヌードルにお湯を注ぎ、しばらく待つ。
その間に普通の朝食も並べる。
やがて三分が経つ。
「いただきます」
「いただきます」
「いただきます!」
四人で食べる。
一人一個。
それが当たり前になってきたことが、少し不思議だった。
最初は一つしかなくて、それを四人で分けていた。
二つになり、三つになり、四つになった。
そして今は五つ。
「おいしい!」
アリアが嬉しそうに麺をすすっている。
俺も自分のカップを食べながら、昨日までとは少し違う感覚を覚えていた。
量が増えた。
家族全員が、一人一つ食べられる。
それだけでも、このスキルが成長してきたことを実感できる。
食べ終わった容器は、いつものようにしばらくすると消えていった。
そして、棚には食べずに残した一つだけが残る。
「これで備蓄一個か」
俺はそれを確認してから、【NISSIN】を確認した。
『生成可能商品:カップヌードル』
『本日の生成可能回数:0/5』
今日も五個。
明日の朝には、また五個に戻るはずだ。
「……明日はどうなるかな」
俺はそう呟いた。
◇◇◇
翌朝。
『生成可能商品:カップヌードル』
『本日の生成可能回数:5/5』
「……五個」
昨日と同じだった。
「まあ、昨日増えたばかりだしな」
俺はそれほど気にしなかった。
これまでだって、毎日必ず増えていたわけではない。
とはいえ、俺は記録を残している。
だから、今日の日付も書き込んでおく。
――五個。
その日も四個を家族で食べ、一個を備蓄に回した。
棚には二個のカップヌードルが並んだ。
そして翌日。
『生成可能商品:カップヌードル』
『本日の生成可能回数:6/6』
「……六個」
ようやく増えた。
俺は少し考えてから、記録を確認する。
五個になったのは二日前。
つまり、五個から六個になるまで二日。
「……あれ?」
俺は紙を見つめた。
――三個。二日。
――四個。二日。
――五個。二日。
「同じだ」
ここで初めて、はっきりと違和感を覚えた。
一個から二個になるまで約一週間。
二個から三個は四日。
そこから二日になった。
そして、四個から五個も二日。
五個から六個も二日。
「……成長速度が、ここで止まった?」
いや。
正確には、成長していないわけではない。
ちゃんと五個から六個になった。
ただ、これ以上速くなっていない。
俺はしばらく考えた。
五個になってから変わったこと。
それは一つしかない。
「食べきれなくなったこと……か?」
四個までは、生成した分を毎日家族四人で全部食べていた。
でも五個になってから、一個を残すようになった。
六個になれば、二個残る。
つまり、生成数が増えても、家族が一日に食べられる量は変わらない。
「……もしかして」
俺は棚を見る。
そこには昨日までに残したカップヌードルが並んでいた。
今日からは六個。
四個は家族で食べる。
二個は残る。
「備蓄が増えてる」
もちろん、まだ確信はない。
ただ、今までの記録と合わせると、どうしても気になる。
【NISSIN】は毎日使っている。
生成も毎日している。
なのに、四個を超えたところから成長速度が速くならなくなった。
そして、四個を超えた分だけ、食べずに残っている。
「……関係あるのか?」
俺はそう呟いた。
◇◇◇
それから数日。
六個になってからも、成長するまでの間隔は二日だった。
その間、毎日四個を家族で食べ、残りを備蓄に回した。
七個になれば三個。
八個になれば四個。
そうしているうちに、棚に並ぶカップヌードルは少しずつ増えていった。
「結構たまったな」
ある日、俺は棚を見ながら呟いた。
最初は一個だった。
それが二個になり、三個になり、気づけばかなりの数になっている。
「食べる分より、増える分のほうが多いからね」
母が言う。
「そうなんだよな」
俺は備蓄を見ながら考えた。
もし、この仮説が正しいなら。
余っているカップヌードルを誰かに食べてもらえば、何か変化が起こるかもしれない。
もちろん、まだ仮説だ。
ただ、試してみる価値はある。
「父さん、母さん」
「どうした?」
「これ、近所の人に配ってみない?」
二人が俺を見る。
「近所に?」
「うん」
俺は棚のカップヌードルを指差した。
「こんなに余ってるし。いつも野菜を分けてもらったり、いろいろお世話になってるから」
それは本当だった。
近所の人たちには普段から助けてもらっている。
だから、食べ物を分けること自体はおかしくない。
「それに……」
俺は少し言葉を選んだ。
「このスキルが、食べてもらった量で成長してるんじゃないかって思ってるんだ」
父と母は黙って聞いている。
「四個までは、増えるまでの時間がどんどん短くなってた。でも五個になってから、二日ごとになった」
「つまり、余った分が関係しているかもしれないってことね」
母が言う。
「うん」
父も少し考えてから頷いた。
「だったら、試してみればいい」
「いいの?」
「どうせ食べきれないんだろ?」
「うん」
「なら、誰かに食べてもらったほうがいいさ」
母も笑う。
「せっかくだもの。おいしいものなら、喜んでもらえると思うわ」
「ありがとう」
こうして俺たちは、これまでに備蓄していたカップヌードルをいくつか持って、近所へ配ることにした。
「これはね、お湯を入れて三分待つだけだから」
「へえ、そんな食べ物があるのか」
「ええ。よかったら食べてみてください」
不思議そうな顔をされながらも、受け取ってもらう。
別の家にも配る。
また別の家にも配る。
最初は少し緊張したが、思っていたよりも喜んでもらえた。
そして、その日の夜。
俺はいつもより少しだけ期待しながら眠った。
◇◇◇
翌朝。
目が覚めると、俺はすぐに【NISSIN】を確認した。
『生成可能商品:カップヌードル』
『本日の生成可能回数:9/9』
「…………九個?」
俺はしばらく動けなかった。
昨日まで八個だった。
それが九個になっている。
しかも、八個になったばかりではない。
これまでなら、次に増えるまで二日かかっていた。
なのに今回は、一日で増えた。
「……早くなってる」
俺は慌てて記録を取り出した。
――一個。約一週間。
――二個。四日。
――三個。二日。
――四個。二日。
――五個。二日。
――六個。二日。
――七個。二日。
――八個。
そして、
――近所へ配布。
――九個。
「……やっぱり」
胸が高鳴る。
もちろん、これだけで完全に証明されたわけじゃない。
でも、あまりにも条件が一致している。
家族だけで食べていたときは、五個を超えても二日ごとだった。
余った分を備蓄していた。
その備蓄を、近所の人たちに渡した。
そして翌日、成長速度が上がった。
「食べられたんだ」
俺は呟いた。
「俺たちが作った分が、誰かに食べられた」
だから、増えた。
そう考えると、すべてがつながる。
【NISSIN】は、ただ使うだけで成長するわけではない。
生成しただけでもない。
実際に食べられること。
それが、このスキルの成長に関係している。
「……間違いない」
俺は記録を握りしめながら、確信した。
「食べてもらった量が、成長に影響してるんだ」
これまで俺は、自分と家族だけでカップヌードルを食べてきた。
だから、家族四人で食べられる量を超えたところで、成長速度が頭打ちになった。
けれど、他の人にも食べてもらえば違う。
食べる人が増えれば、消費される量も増える。
そして消費される量が増えれば、【NISSIN】もまた成長する。
「だったら……」
俺は九個という数字を見る。
「もっとたくさんの人に食べてもらえば、もっと早く増えるのか?」
その答えは、まだ分からない。
けれど、一つだけ確かなことがある。
家族四人だけで食べ続けるよりも、他の誰かに食べてもらったほうが、【NISSIN】は早く成長した。
だったら、これを売ってみるのもいいかもしれない。




