第32話 U.F.O.解禁
グランツ商会への初回納品から一週間ほどが過ぎていた。
モフク商会は相変わらず忙しい。
だが最近は忙しさの質が少し変わってきていた。
以前は販路を探すための忙しさだった。
今は違う。
増えた販路へ商品を届けるための忙しさだ。
東領西領。取引先は着実に増えている。
その結果として【NISSIN】も成長を続けていた。
◇◇◇
朝。
目を覚ました俺は、いつものようにスキルを開く。
『生成可能商品:カップヌードル』
『生成可能商品:カップヌードル シーフード』
『生成可能商品:カップヌードル カレー』
『生成可能商品:どん兵衛 きつねうどん』
『生成可能商品:どん兵衛 天ぷらそば』
『本日の生成可能回数:4012/4012』
「四千超えた」
思わず呟いた。
ついに四千個。
そして予想通りだった。
表示の下へ新しい文字が現れる。
『新商品解放』
思わず身を乗り出す。
次は何だろう。
どん兵衛の新商品か。
それとも別の何かか。
表示が変化する。
『生成可能商品:日清焼そばU.F.O.』
「UFOか!」
思わず立ち上がった。
なるほど。
確かに順番としてはありだ。
カップヌードル。
どん兵衛。
そしてUFO。
前世でも長く売れ続けていた定番商品だった。
◇◇◇
朝食を済ませると、すぐに倉庫へ向かった。
誰もいないことを確認して生成する。
目の前に現れた商品を見て思わず笑った。
「懐かしいな」
丸い容器。
見慣れたパッケージ。
間違いなくUFOだった。
だが問題がある。
「これは驚くだろうな」
UFO最大の特徴。
湯切りだ。
今までの商品にはなかった工程である。
◇◇◇
その日の昼。
主要メンバーを集めて試食会を開く。
最近ではすっかり恒例行事になっていた。
「また新商品?」
アリアが嬉しそうに聞く。
「そう」
俺は商品を机へ置いた。
全員が覗き込む。
「今度は何ですか?」
エマが尋ねた。
「ちょっと変わった麺料理かな」
そう答えるしかない。
焼きそばなんて概念はこの世界にはないのだから。
「まず作るよ」
人数分を並べる。
蓋を開ける。
お湯を注ぐ。
ソースを蓋上に置く。
ここまでは普通だった。
全員も特に驚いていない。
だが三分後。
俺は容器を持ち上げた。
「ここからが違う」
蓋の一部を開く。
そして。
お湯を用意していた容器に捨てた。
「えっ!?」
最初に声を上げたのはアリアだった。
「なんで!?」
「捨てたぞ!?」
父まで驚いている。
ミーナもロイドも固まっていた。
リックとエマも同じだ。
「大丈夫だから」
俺は苦笑する。
予想通りの反応だった。
「いやいやいや」
父が言う。
「お湯入れた意味は?」
「麺を戻すため」
「戻したら捨てるのか?」
「捨てる」
「もったいない!」
全員が頷いていた。
異世界人としては当然の感覚だろう。
だがまだ終わりではない。
今度はソースを入れる。
麺を混ぜる。
さらにふりかけ。
香りが一気に広がった。
「おお……」
さっきまで困惑していた父が思わず声を漏らす。
香ばしい。
今までの商品とは全く違う香りだった。
「完成」
全員の前へ置く。
見た目からして違う。
汁がない。
麺だけだ。
「スープがない……」
ミーナが呟く。
「ないね」
不安そうな顔をしている。
だが食べれば分かる。
「いただきます」
試食が始まる。
そして。
「美味しい!」
真っ先に叫んだのはアリアだった。
予想通りである。
「なんだこれ」
父も驚いていた。
「濃いな」
「そうですね」
UFOらしい濃厚なソース味。
前世でも人気だった理由の一つだ。
「汁がないのに美味しいですね」
エマが言う。
「不思議です」
リックも頷いた。
今までの商品は全てスープがあった。
だからこそ新鮮なのだろう。
「麺も違います」
ミーナが感心している。
「確かに」
ロイドも同意した。
太めのもちもち麺。
濃いソース。
食べ応えもある。
「売れそうだな」
父が断言した。
全員が頷く。
その反応を見て俺も安心した。
どうやら今回も成功らしい。
試食会が終わった後も、しばらく会議室にはソースの香りが残っていた。
「しかし本当に不思議ですね」
ミーナが空になった容器を眺める。
「最初は失敗した料理かと思いました」
「失敗?」
俺が苦笑する。
「だってお湯を捨てたんですよ?」
「確かに」
ロイドも頷く。
「私も途中で作り方を間違えたのかと思いました」
全員が笑った。
異世界人から見れば当然の反応だろう。
お湯を捨てる。
その発想自体が存在しない。
「でも売れると思います」
エマが真面目な顔で言った。
「今までの商品とは全く違います」
「どん兵衛とも違うな」
父も頷く。
「食事というより、もっと気軽な感じがする」
その感想には俺も同意だった。
前世でも焼そばは少し立ち位置が違った。
ラーメンでもない。
うどんでもない。
独特の存在だった。
「若い人には特に受けそうですね」
リックが言う。
「味が濃いですから」
「確かに」
アリアも大きく頷く。
「私は好き!」
その言葉に全員が笑った。
どうやら今回も評判は上々らしい。
◇◇◇
今度は販売会議だ。
「問題は割合ですね」
ミーナが帳簿を開く。
現在の商品は五種類。
そこへUFOが加わる。
当然調整が必要だった。
議論の結果。
しょうゆ二十五%。
シーフード二十%。
カレー二十%。
きつねうどん十五%。
天ぷらそば十%。
そしてUFO十%。
まずは様子を見ることになった。
「説明は大丈夫かな」
俺が言う。
だがリックが笑った。
「問題ありません」
「うん?」
「蓋に全部書いてありますから」
そうだった。
三千個到達で解放された図解説明機能。
UFOの容器にもきちんと反映されている。
湯切り方法まで絵付きだ。
これなら新しい説明書は必要ない。
◇◇◇
夕方。
完成した商品を見ながら考える。
カップヌードル。
どん兵衛。
そしてU.F.O.。
商品は六種類になった。
販路も広がっている。
従業員も増えた。
商会も成長している。
そして【NISSIN】もまた進化を続けている。
最後にスキルを開く。
『本日の生成可能回数:0/4012』
四千十二。
また一つ大きな節目を超えた。
次は五千か。
その時には何が解放されるのだろう。
俺は少しだけ期待しながらスキルを閉じた。




