第31話 試験販売開始
グランツ商会から試験販売の打診が届いてから数日。
モフク商会ではその対応に追われていた。
もっとも、特別なことをするわけではない。
商品を作り、届ける。
やること自体は今までと変わらなかった。
ただ相手の規模が違う。
それだけだった。
◇◇◇
朝。
いつものようにスキルを確認する。
『生成可能商品:カップヌードル』
『生成可能商品:カップヌードル シーフード』
『生成可能商品:カップヌードル カレー』
『生成可能商品:どん兵衛 きつねうどん』
『生成可能商品:どん兵衛 天ぷらそば』
『本日の生成可能回数:3528/3528』
「三千五百か」
最近は増加量も大きい。
新しい販路が増えた影響だろう。
俺は倉庫へ向かい、その日の生成を始めた。
二十食入りの箱が次々と積み上がっていく。
今ではこの光景にも慣れてしまった。
◇◇◇
午前。
会議室へ呼ばれる。
父。
ミーナ。
ロイド。
そして戻ってきていたリックとエマもいた。
テーブルの上には資料が並んでいる。
「グランツ商会の件だね」
俺が言うと、全員が頷いた。
「正式に試験販売が決まりました」
エマが報告する。
「向こうもかなり乗り気です」
「どのくらい?」
「まずは五種類全てです」
そう言って資料を広げた。
しょうゆ。
シーフード。
カレー。
きつねうどん。
天ぷらそば。
全種類が対象になっている。
「予想より多いな」
父が言う。
「はい」
エマも頷く。
「特にどん兵衛シリーズへの関心が強いようです」
なるほど。
きつねうどんも天ぷらそばも好調だ。
不思議ではない。
「納品量は?」
ロイドが尋ねる。
エマが紙を確認した。
「初回は二百箱です」
「二百箱?」
ミーナが目を丸くする。
カップヌードルが二十食入り、どん兵衛が十二食入りだから四千食弱。
普通の商会ならかなりの量だ。
しかし。
「今なら出せるね」
俺が言う。
ロイドも頷いた。
「問題ありません」
「在庫も確保できます」
以前なら難しかった。
だが今は違う。
倉庫も増えた。
人員も増えた。
生産量も増えた。
対応できる。
「試験販売の期間は?」
父が聞く。
「一か月です」
エマが答える。
「その間の売上と反応を見て判断するそうです」
「妥当だな」
父は頷いた。
俺もそう思う。
いきなり大規模契約はしない。
まずは試す。
商人としては当然だった。
◇◇◇
会議が終わったあとも、しばらく商会の中はざわついていた。
「グランツ商会か……」
配送担当の一人が呟く。
「そんなに有名なの?」
新人の配送員が尋ねる。
「有名なんてもんじゃないぞ」
別の従業員が苦笑した。
「西領じゃ知らない商人の方が少ない」
それほどの商会だった。
もちろん俺も名前は聞いていた。
だが実際に取引するとなると話は別だ。
モフク商会は急成長しているとはいえ、まだ設立から一年も経っていない。
そんな商会の商品が大手商会の店頭に並ぶ。
考えてみれば凄いことだった。
「失敗できませんね」
ミーナが真面目な顔で言う。
「だね」
俺も頷いた。
試験販売。
言葉だけ聞けば軽く見える。
だがここで結果を出せれば、さらに大きな販路へ繋がる可能性がある。
モフク商会にとって重要な一歩だった。
◇◇◇
数日後。
グランツ商会向けの荷物が完成した。
倉庫には大量の箱が並んでいる。
「壮観だな」
父が呟く。
二百箱。
以前のモフク商会なら大仕事だった。
だが今は違う。
準備はすでに終わっていた。
「出発します」
エマが言う。
今回の担当も彼女だ。
西領との交渉を続けてきたのだから当然だった。
「よろしく」
「お任せください」
力強い返事だった。
荷馬車がゆっくり動き出す。
積み込まれた商品は二百箱。
モフク商会始まって以来の大型案件だった。
◇◇◇
その日の夕方。
事務室で帳簿を確認していると、ミーナが声をかけてきた。
「会頭」
「ん?」
「最近の販売割合です」
資料を受け取る。
内容を見る。
しょうゆ。
シーフード。
カレー。
きつねうどん。
天ぷらそば。
五種類全て売れている。
だが伸び方は違った。
特に目立つのはどん兵衛シリーズだった。
「強いなあ」
思わず呟く。
「ですね」
ミーナも笑う。
「発売してまだ一か月ほどなのに」
「予想以上です」
◇◇◇
夜。
一人で倉庫を見回る。
以前は商品不足を心配していた。
今は違う。
販路が広がり続けている。
取引先も増えている。
商会も大きくなっている。
気が付けば従業員の数もかなり増えていた。
最後にスキルを開く。
『本日の生成可能回数:0/3528』
三千五百二十八。
四千まではあと少しだ。
次に何が解放されるのかは分からない。
だが最近の流れを考えれば、新商品の可能性が高い。
カップヌードル。
どん兵衛。
その次は何だろう。
少しだけ楽しみになる。
俺はスキルを閉じた。
明日もまた忙しい一日になるだろう。
けれど、その忙しさは商会が成長している証だった。




