第30話 次の一歩
どん兵衛天ぷらそばを発売してから二週間ほどが過ぎていた。
最初は様子見だった取引先も追加注文を出し始め、きつねうどんに続いて天ぷらそばも順調に売れている。
東領西領どちらの地域からも良い報告が届いていた。
モフク商会は今日も忙しい。
だが、その忙しさにも少しずつ慣れ始めていた。
◇◇◇
朝。
いつものようにスキルを確認する。
『生成可能商品:カップヌードル』
『生成可能商品:カップヌードル シーフード』
『生成可能商品:カップヌードル カレー』
『生成可能商品:どん兵衛 きつねうどん』
『生成可能商品:どん兵衛 天ぷらそば』
『本日の生成可能回数:3376/3376』
「三千三百七十六か」
少し前まで二千個台だったが、もう三千三百を超えている。
増加速度は相変わらずだ。
俺は倉庫へ向かい、その日の生成を終わらせた。
二十食入りの箱が次々と積み上がっていく。
以前なら半日仕事だった。
今では一時間もかからない。
便利になったものだ。
◇◇◇
午前。
会議室へ呼ばれる。
中には父とミーナ、それにロイドがいた。
「どうしたの?」
「売上の集計です」
ミーナが帳簿を差し出した。
最近はこういう報告も増えている。
俺は椅子へ座った。
「まず天ぷらそばですが」
ミーナがページを開く。
「好調です」
「やっぱり?」
「はい」
数字を見る。
確かに伸びていた。
発売直後よりも販売数が増えている。
普通なら逆だ。
新商品は最初が一番売れる。
だが天ぷらそばは違った。
「口コミですね」
ロイドが言う。
「口コミ?」
「はい」
帳簿とは別の紙を差し出す。
そこには営業報告がまとめられていた。
『後から乗せる天ぷらが面白い』
『途中で入れる派』
『最後まで残す派』
『最初に全部沈める派』
『食べ方で盛り上がっている』
思わず笑ってしまう。
「なんだこれ」
「東領の報告です」
ミーナも笑っていた。
前世では当たり前だった。
だがこの世界では違う。
食べながら変化する商品自体が珍しいのだろう。
「客層も見えてきました」
ミーナが説明を続ける。
「しょうゆは幅広く売れています」
「うん」
「カレーは子供や若い人に人気です」
「なるほど」
「シーフードは女性客が多いですね」
意外と細かく調べている。
そして。
「きつねうどんと天ぷらそばは年齢層が高めです」
「やっぱり?」
「はい」
リックたちの報告とも一致していた。
どうやら予想は当たっていたらしい。
「面白いな」
俺は思わず呟いた。
前世では単純に好きな味を選んで買っていただけだった。
だが商売として見ると違う。
商品ごとに客層がある。
売れる場所も違う。
売り方も違う。
学ぶことは多かった。
◇◇◇
昼頃。
一通の郵便が届いた。
差出人はエマだった。
「西領から?」
封を開く。
中には報告書が入っていた。
いつもの販売報告かと思った。
だが違った。
『グランツ商会について報告します』
その一文で目が止まる。
以前、エマが接触したという大手商会だ。
続きを読む。
『先方はモフク商会の商品に強い関心を示しています』
『特にどん兵衛シリーズの評価が高く、試験販売を希望しています』
「試験販売か」
俺は小さく呟いた。
ミーナとロイドも覗き込む。
さらに読み進める。
『現段階では正式契約ではありません』
『まず一定数を販売し、その結果を見て判断したいとのことです』
『成功した場合、大規模な継続取引へ発展する可能性があります』
そこで手紙は終わっていた。
部屋に少し沈黙が落ちる。
「大手なんですよね?」
ミーナが聞いた。
「らしいね」
「成功したら凄そうですね」
ロイドも頷く。
俺もそう思う。
今までの取引先とは規模が違う。
成功すれば大きい。
だが焦る必要もない。
俺はいつも通り商品を作り続けるだけだ。
◇◇◇
夕方。
父にも報告する。
「大手か」
父が腕を組む。
「どう思う?」
「悪い話じゃないな」
「だよね」
「ただし急ぐ必要もない」
俺も同意だった。
モフク商会はまだ成長中だ。
一つの商会に依存する必要はない。
まずは試験販売。
結果を見る。
それで十分だった。
◇◇◇
夜。
一人で帳簿を眺める。
商品は五種類。
取引先は増加中。
販路も東領、西領へ広がった。
そして今度は大手商会からも興味を持たれている。
少し前までは村で畑仕事をしていたのだ。
本当に人生は分からない。
最後にもう一度スキルを開く。
『本日の生成可能回数:0/3376』
三千三百七十六。
まだ増え続けている。
四千まではもう遠くない。
その時に何が解放されるのかは分からない。
だがきっとまた新しい商品だろう。
そんな予感があった。
俺はスキルを閉じる。
明日も忙しくなる。
だが悪くない忙しさだった。
モフク商会は今日も少しずつ前へ進んでいる。
そしてその歩みは、まだ止まりそうになかった。
ストックが尽きたのでこれ以降1話更新になります




