↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
29/33

第29話 そばかうどんか

 どん兵衛天ぷらそばを発売してから十日ほどが過ぎていた。

 新商品ということで最初は様子見だった取引先も、少しずつ追加注文を出し始めている。

 きつねうどんに続くどん兵衛シリーズ第二弾。

 果たして受け入れられるのか。発売前は少し不安もあった。

 だが、その心配は杞憂だったようだ。


◇◇◇


 朝。

 いつものようにスキルを確認する。


『生成可能商品:カップヌードル』


『生成可能商品:カップヌードル シーフード』


『生成可能商品:カップヌードル カレー』


『生成可能商品:どん兵衛 きつねうどん』


『生成可能商品:どん兵衛 天ぷらそば』


『本日の生成可能回数:3248/3248』


「三千二百四十八か」


 また増えている。

 三千を超えてからも成長速度は衰えなかった。

 もっとも、最近は二十食入り箱で生成できるようになったため以前ほど大変ではない。

 むしろ出荷や管理の方が忙しくなっていた。


◇◇◇


 商会へ到着すると、ミーナが慌ただしく帳簿を抱えていた。


「あ、おはようございます」


「おはよう」


「ちょうど良かったです」


 そう言って差し出されたのは売上報告書だった。


「天ぷらそばの売り上げ集計が終わりました」


「もう?」


「はい」


 俺は報告書に目を通す。

 そして少し驚いた。


「売れてるね」


「想定以上です」


 ミーナも頷いた。

 販売数だけならまだきつねうどんには及ばない。

 だが新商品の初動としては十分すぎる数字だった。


◇◇◇


 昼頃。

 一通の郵便が届いた。

 差出人はリック。

 東領からの報告だった。


『天ぷらそばについて報告します』


『試食会での反応は良好です』


『特に天ぷらを後から入れる点が好評でした』


『食感が変わることを面白がる客が多く見られます』


『すぐ入れる者』


『途中で入れる者』


『最後まで残す者』


『様々な食べ方が話題になっています』


 思わず笑った。

 なるほど。

 前世では当たり前だったが、この世界では珍しいのだろう。


◇◇◇


 数日後。

 今度はエマからも報告が届いた。


『西領でも販売は好調です』


『きつねうどん派と天ぷらそば派に分かれています』


「派閥?」


 思わず声が出た。

 さらに読み進める。


『商人たちの間ではどちらが上かという話題も出ています』


『試食会で議論になることもありました』


『個人的には両方美味しいと思います』


 最後の一文に少し笑う。

 エマらしい。


◇◇◇


 その日の夕方。

 会議室で報告内容を共有する。


「きつね派と天ぷら派?」


 父が笑った。


「そんなことになってるのか」


「らしいよ」


 俺も苦笑する。

 アリアは即答だった。


「私は天ぷら!」


「早いな」


「だって美味しいもん」


 母は少し考える。


「私はきつねかしら」


「おあげ好きだもんね」


「ええ」


 ミーナも口を開いた。


「私はきつねですね」


「ロイドは?」


「天ぷらです」


 綺麗に分かれた。


「これは悪いことじゃありません」


 ミーナが帳簿を開きながら言った。


「むしろ理想的です」


「理想的?」


「はい」


 彼女は数字を指差した。


「どちらか一方しか売れなければ商品が偏ります」


「うん」


「ですが両方に需要があれば販売先も増やしやすくなります」


 確かにその通りだった。

 客の好みが分散する。

 つまり市場が広がる。


「きつねうどんだけで終わらなかったのは大きいですね」


 ロイドも同意した。


◇◇◇


 会議が終わった後。

 俺は倉庫を見回っていた。

 しょうゆ。

 シーフード。

 カレー。

 きつねうどん。

 天ぷらそば。

 商品は五種類になった。

 最初はカップヌードル一種類だけだった。

 それが今ではこれだけ増えている。

 倉庫の光景も随分変わったものだ。


「会頭」


 後ろから声がした。

 振り返るとロイドだった。


「どうしたの?」


「在庫調整の相談です」


 帳簿を見せられる。


「天ぷらそばの動きが想定以上です」


「やっぱり?」


「はい。現在は五%しか割り当てていません」


 確かにそうだった。

 三千個以上生成できるようになったとはいえ、生産割合は慎重に決めている。


「少し増やした方がいいかな」


「私もそう思います」


 どうやら次回の会議で議題になりそうだった。


◇◇◇


 夜。

 仕事を終えて帰宅する。

 夕食の席でも話題は新商品だった。


「今日、近所の人にも聞かれたわよ」


 母が言う。


「何を?」


「きつねとうどん、どっちがおすすめですかって」


「うどん?」


 思わず笑ってしまう。


「きつねはうどんだよ」


「あら、そうだったわね」


 母も笑った。

 どうやら商品名が浸透し始めているらしい。


◇◇◇


 食後。

 一人で部屋へ戻る。

 窓の外には夜の町が広がっていた。

 村にいた頃には想像もできなかった景色だ。

 商会を作った。

 従業員を雇った。

 他領へ販路を広げた。

 新商品も増えた。

 そして今では商品ごとに好みが分かれるほどになっている。


「不思議なもんだな」


 前世では当たり前に存在していた商品たち。

 だがこの世界では全て新しい。

 だからこそ面白い。

 そして【NISSIN】もまだ成長を続けている。

 三千二百四十八個。

 次の区切りは四千だろうか。

 それとももっと先だろうか。

 答えは分からない。

 だが一つだけ確かなことがある。

 モフク商会はまだ止まらない。

 そして【NISSIN】もまた、次の段階へ向かって進み続けていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。