第28話 新機能実装
どん兵衛きつねうどんを発売してから一か月ほどが過ぎていた。
東領、西領、どちらの地域でも販売は順調だった。
最初は様子見だった商会も追加注文を出し始め、試験販売だった取引先も正式契約へ移行している。
モフク商会の販路は着実に広がっていた。
倉庫も一つ増えた。
従業員も増えた。
配送担当。
営業担当。
事務担当。
今では商会らしい形が整っている。
もちろん忙しさは相変わらずだった。
むしろ以前より忙しい。
だが一人で抱え込んでいた頃とは違う。
任せられる人がいる。
だからこそ商会は成長を続けていた。
◇◇◇
朝。
目を覚ました俺は、いつものようにスキルを開いた。
『生成可能商品:カップヌードル』
『生成可能商品:カップヌードル シーフード』
『生成可能商品:カップヌードル カレー』
『生成可能商品:どん兵衛 きつねうどん』
『本日の生成可能回数:3014/3014』
「三千超えたか」
思わず呟く。
ついに三千個。
二千を超えた時も驚いた。
だが今回は違う。
前回の経験から分かっている。
区切りの数字に到達すると新しい変化が起きる。
俺は表示を見つめた。
すると。
予想通り、新しい文字が現れた。
『新機能解放』
「やっぱり来た」
思わず笑う。
さらに文字が続く。
『商品情報編集機能を解放しました』
『パッケージ翻訳機能を解放しました』
『図解説明機能を解放しました』
『新商品解放』
『生成可能商品:どん兵衛 天ぷらそば』
「天ぷらそば!」
思わず立ち上がった。
きつねうどんに続いて天ぷらそば。
どん兵衛シリーズの定番商品だ。
そして同時に気になった。
新機能。
商品情報編集機能。
翻訳機能。
図解説明機能。
どういうことだろう。
◇◇◇
朝食を終えて商会へ向かう。
まずは新商品の確認だ。
倉庫へ入り、生成を試す。
次の瞬間。
目の前へ新しい商品が現れた。
「おお……」
思わず声が漏れる。
前世で何度も見た容器。
天ぷらそばだ。
蓋を開ける。
中には麺。
粉末スープ。
そして小袋に入った天ぷら。
間違いない。
「懐かしいな」
前世では夜食によく食べていた。
きつねうどんとはまた違った美味しさがある。
しかし問題もある。
この商品はきつねうどんより作り方が複雑なのだ。
粉末スープを入れる。
お湯を注ぐ。
数分待つ。
最後に天ぷらを乗せる。
間違って先に入れると食感が変わってしまう。
「説明書どうするかな」
そう呟きながら容器を見た。
そして固まった。
「……あれ?」
◇◇◇
側面の文字が変わっていた。
昨日まで見慣れた日本語だったはずだ。
しかし今は違う。
異世界の文字になっている。
「え?」
思わず何度も見直す。
見間違いではない。
さらに容器を見回す。
蓋の裏には調理手順が描かれていた。
絵付きだった。
一枚目。
蓋を開ける。
二枚目。
粉末スープを入れる。
三枚目。
お湯を注ぐ。
四枚目。
待つ。
五枚目。
天ぷらを乗せる。
文字が読めなくても理解できる。
「翻訳されてる……」
完全に予想外だった。
今までの説明書問題が一気に解決している。
◇◇◇
その日の昼。
商会の会議室へ主要メンバーが集められた。
父。
母。
アリア。
ミーナ。
ロイド。
リック。
エマ。
そして俺。
テーブルの上へ新商品を並べる。
「また増えたの?」
アリアが目を輝かせた。
「増えた」
俺は苦笑する。
「今回はこれ」
全員の視線が集まる。
「どん兵衛?」
父が言う。
「同じなんだけど少し違う」
◇◇◇
まずは調理だ。
人数分を用意する。
粉末スープを入れる。
お湯を注ぐ。
蓋を閉じる。
そして待つ。
その間に小袋を見せた。
「これは?」
ミーナが首を傾げる。
「後で使う」
「後で?」
全員が不思議そうな顔になる。
そして時間が経過した。
俺は蓋を開ける。
そこで初めて天ぷらを乗せた。
「完成」
香りが広がる。
出汁の香り。
そばの香り。
そして天ぷらの香ばしさ。
「いただきます」
試食が始まる。
最初に反応したのは父だった。
「麺が違うな」
「うん」
「細い」
「うどんとは違う、そばってやつだからね」
続いてアリア。
「天ぷら美味しい!」
予想通りだった。
真っ先に天ぷらへ飛びついている。
母も頷く。
「食感が面白いわね」
「最初から入れないの?」
ミーナが聞く。
「入れても食べられるけど、後からの方が美味しいんだ」
なるほど、と全員が頷いた。
リックも感心している。
「これは売れそうですね」
「きつねうどんとは別物ね」
エマも同意した。
同じどん兵衛でも方向性が違う。
だから客層も分かれるだろう。
◇◇◇
試食会の後。
今度は新機能の説明になった。
俺は容器を見せる。
「ここ見て」
全員が覗き込む。
そして驚いた。
「文字が読める」
ロイドが言った。
「しかも絵があります」
ミーナも驚いている。
リックが蓋をはずす。
「これなら説明しやすいですね」
「だね」
俺も頷く。
今までは説明書を作っていた。
だが商品が増えるたびに作るのは大変だ。
しかしこれなら違う。
商品そのものが説明書になっている。
◇◇◇
その後、生産割合の会議が行われた。
どん兵衛きつねうどん。
どん兵衛天ぷらそば。
新たな商品が加わったことで調整が必要になる。
議論の結果。
しょうゆ三十%。
シーフード二十五%。
カレー二十五%。
きつねうどん十五%。
天ぷらそば五%。
まずはこの割合から始めることになった。
新商品は様子見。
それが全員の共通認識だった。
◇◇◇
夕方。
荷馬車へ商品が積み込まれていく。
リックとエマも準備を進めていた。
「今度はてんぷらそば、ですか」
リックが笑う。
「反応が楽しみですね」
エマも頷いた。
カップヌードル。
シーフード。
カレー。
きつねうどん。
そして天ぷらそば。
商品はまた一つ増えた。
販路も広がっている。
従業員も増えた。
商会も大きくなった。
そして【NISSIN】もまた進化した。
以前はただ商品を生み出すだけだったスキル。
だが今は違う。
この世界に合わせて変化し始めている。
俺は積み込まれていく商品を眺めながら小さく笑った。
三千個。
それは単なる数字ではなかった。
モフク商会も。
【NISSIN】も。
また一段階先へ進んだ証だった。




