第25話 商会拡大
営業担当募集を出してからしばらく。
東領へ向かったリックたち。
西領へ向かったエマたち。
二組が出発してから十数日が過ぎていた。
その間もモフク商会は忙しかった。
毎朝の生成。
倉庫管理。
出荷確認。
帳簿整理。
取引先との連絡。
やることは山ほどある。
特に最近は帳簿の量が増えすぎていた。
◇◇◇
「父さん」
「ん?」
「最近、帳簿増えてない?」
「増えてるな」
即答だった。
机の上には積み上がった帳簿。
取引記録。
在庫管理。
配送記録。
契約書。
数か月前とは比較にならない。
「正直な」
父が苦笑する。
「そろそろ限界だ」
「だよね」
俺も同意する。
配送はトムたちがいる。
営業はリックたちがいる。
だが事務だけは違った。
結局ほとんど父と俺が処理している。
「事務員を雇うか」
父が言った。
俺も頷く。
資金面の問題はない。
現在の利益は十分。
人件費が増えても問題なく維持できる。
むしろ父が倒れる方が困る。
「募集出そう」
「そうだな」
こうしてモフク商会は初めて事務員募集を行うことになった。
◇◇◇
数日後。
応募者は予想以上に集まった。
商会の知名度が上がっている証拠だろう。
面接を行う。
帳簿経験者。
元商店員。
計算が得意な者。
様々だった。
そして最終的に二人を採用することになった。
◇◇◇
一人目はミーナ。
二十五歳。
以前は雑貨商会で帳簿を担当していた女性だった。
茶色の髪を後ろでまとめている。
落ち着いた雰囲気の人物だ。
「帳簿は任せてください」
そう言った言葉には自信があった。
二人目はロイド。
二十八歳。
元倉庫管理担当。
在庫管理と書類整理を得意としている。
「数字を合わせるのは好きです」
少し変わったことを言っていたが、仕事は丁寧だった。
◇◇◇
採用から数日。
効果はすぐに現れた。
「会頭」
ミーナが帳簿を持ってくる。
「先月の利益をまとめました」
「早いね」
「以前の記録も整理しておきました」
父が驚いた顔をする。
今まで半日かかっていた作業だった。
ロイドも同じだった。
「倉庫の在庫一覧です」
「もう作ったの?」
「はい」
どの商品が何箱。
どの倉庫に保管されているか。
一目で分かるようになっていた。
「有能だな」
「有能だね」
俺も同意した。
◇◇◇
そんなある日。
商会の前へ一台の荷馬車が止まった。
戻ってきたのはリックたちだった。
「ただいま戻りました!」
疲れている。
だが表情は明るい。
成果があった顔だった。
◇◇◇
報告会が開かれる。
東領。
契約成立五件。
継続交渉二件。
試験販売三件。
予想以上の成果だった。
「すごいね」
思わずそう言う。
リックは照れたように笑った。
「商品が良かったんですよ」
◇◇◇
さらに数日後。
今度はエマたちも帰還した。
こちらも成功だった。
西領で四件契約。
二件継続交渉。
そして大手商会との接触。
「将来的には大きな取引になるかもしれません」
エマがそう報告する。
◇◇◇
報告会が終わったあとも、しばらく商会の中は騒がしかった。
「九件か……」
父が何度も契約書を見返している。
東領五件。
西領四件。
合わせて九件。
数字だけ見ると簡単だが、つい数か月前のモフク商会は町の中だけで商売をしていたのだ。
「増えたなあ」
思わず呟く。
「本当に増えましたね」
ミーナも感心したように言う。
ロイドは既に新しい帳簿を準備していた。
「倉庫も追加で必要になるかもしれません」
「それはありそう」
俺は苦笑する。
だが不思議と嫌な気分ではなかった。
売れない心配をしていた頃が嘘のようだ。
今はどうやって届けるかを考えている。
商売の悩みとしてはずっと贅沢なものだった。
◇◇◇
夕方になっても配送担当たちは忙しく動きまわっていた。
新しい契約先。
新しい配送計画。
新しい出荷量。
トムもガルドも嬉しそうだった。
「仕事が増えるな」
「給料も増えるなら歓迎です」
トムが笑う。
「正直、ここまで大きくなるとは思いませんでした」
ガルドまで珍しくそんなことを言う。
俺も同じだった。
商会を作った時は、ここまで来るとは想像していなかった。
◇◇◇
翌朝。
いつものようにスキルを確認する。
『生成可能商品:カップヌードル』
『生成可能商品:カップヌードル シーフード』
『生成可能商品:カップヌードル カレー』
『本日の生成可能回数:1438/1438』
そこまではいつも通りだった。
だが。
その下に見慣れない表示が現れていた。
『新機能解放』
「ん?」
思わず目を擦る。
表示は消えない。
『梱包生成を解放しました』
『20食入り箱の生成が可能になりました』
「え?」
一瞬意味が分からなかった。
慌てて倉庫へ向かう。
そして試してみる。
次の瞬間。
目の前へ現れたのは二十個入りの箱だった。
さらに十箱。
二十箱。
五十箱。
今まで一つずつ生成していた商品が、最初から梱包された状態で現れる。
「これは……」
思わず呟く。
配送効率。
保管効率。
積み込み効率。
全てが変わる。
これまで時間がかかっていた生成が、ものの数分で終わるようになった。
「会頭!?」
真っ先に駆け込んできたのはトムだった。
その後ろからガルド、ミーナ、ロイドも入ってくる。
騒ぎを聞きつけて集まる従業員たち。
皆が箱を見て驚いている。
そして父が苦笑した。
「また増えたな」
「増えたね」
俺も苦笑する。
販路は広がった。
人員も増えた。
そして【NISSIN】もまた成長した。
モフク商会は今、個人商店から本当の商会へ変わろうとしていた。




