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第24話 届いた報告

 リックたちが出発してから十日ほどが過ぎた。

 モフク商会は相変わらず忙しい毎日を送っていた。

 朝になれば商品を生成し、倉庫へ運び込む。

 帳簿を確認し、出荷量を確認し、配送担当たちと予定を合わせる。

 商会を立ち上げた頃は何もかも手探りだったが、最近はようやく流れができてきていた。

 もちろん暇になったわけではない。


 ◇◇◇


 朝。

 いつものようにスキルを確認する。


『生成可能商品:カップヌードル』


『生成可能商品:カップヌードル シーフード』


『生成可能商品:カップヌードル カレー』


『本日の生成可能回数:1359/1359』


「また増えたな」


 思わず苦笑する。

 千個を超えてからというもの、増加速度が明らかに変わっていた。

 以前なら数個ずつだった。

 今では十個、二十個と増える。

 おそらく消費量や知名度が関係しているのだろう。

 相変わらず詳しい条件は分からない。

 だが成長していることだけは確かだった。


 ◇◇◇


 倉庫へ向かう。

 扉を開くと大量の商品が並んでいた。

 しょうゆ味。

 シーフード味。

 カレー味。

 三種類に増えたことで見た目にも賑やかになっている。

 最近はシーフード味の動きが特に良い。

 父のお気に入りということもあり、家でもよく食べている。

 一方で母とアリアは相変わらずカレー派だった。

 俺はというと、結局しょうゆ味が一番落ち着く。

 新商品は嬉しい。

 だが最後に戻ってくるのはやはり最初の味だった。


 ◇◇◇


「会頭」


 トムたちがいなくなってから、配送担当の一人である青年が声をかけてきた。


「どうしたの?」


「ベルク商会から追加注文です」


「また?」


「はい」


 差し出された紙を見る。

 先月よりさらに多い。

 思わず眉を上げた。


「売れてるんだなあ」


「みたいですね」


 配送担当も苦笑していた。

 ベルク商会だけではない。

 村の商会からも注文は増えている。

 新しく契約した商人たちも同じだ。

 需要そのものが拡大している。


 ◇◇◇


 昼頃。


「会頭」


 配送担当の一人が部屋へ入ってきた。


「どうしたの?」


「手紙です」


 差し出された封筒を見る。

 差出人はリックだった。


「もう届いたのか」


 思ったより早い。

 封を切る。

 中には数枚の報告書が入っていた。


『東領に到着しました』


『現在四つの商会と商談中です』


『カップヌードルの噂は既に広まっており、説明は非常にスムーズでした』


『試食会も好評です』


 そこまでは簡潔な報告だった。

 だが、その後には詳しい内容も書かれていた。


『東領では既にカップヌードルの名前を知っている商人が多くいました』


『特に保存性について強い関心を持たれています』


『行商人や隊商を相手に商売をしている商人からの反応が良好です』


 なるほどと思う。

 確かに長距離を移動する商人なら保存食は重要だ。

 乾燥肉や硬いパンより手軽に食べられるカップヌードルは魅力的だろう。

 さらに読み進める。


『試食会ではお湯を注いで完成する様子に驚かれました』


『特に麺について質問が集中しています』


『どうやって作っているのか何度も聞かれました』


 思わず苦笑した。

 そこは説明できない。

 というより俺も詳しくは知らない。


『味の評価も高く、商談は前向きに進んでいます』


『近いうちに正式な契約の話ができそうです』


 最後にはそう締めくくられていた。


「順調そうだね」


 思っていた以上だった。

 初めての営業だ。

 まずは話を聞いてもらえれば十分だと思っていた。

 だが、どうやらリックは上手くやっているらしい。


 ◇◇◇


 さらに数日後。

 今度はエマからも手紙が届いた。

 こちらも封を開く。


『西領へ到着しました』


『現在五つの商会と接触中です』


『反応は良好です』


 ここまではリックと似た内容だった。

 だが、その後は少し違っていた。


『宿屋を経営する商人から強い興味を示されています』


『旅人向けの商品として扱いたいそうです』


 俺は少し驚いた。

 確かに宿屋にも需要はありそうだ。

 宿屋には負担にならないし、泊まった客が夜食として食べることもできる。


『また、雑貨商の一部からは小分け販売の相談も受けています』


『町の住民向けに扱いたいとのことでした』


 どうやらエマは商会だけでなく販売方法まで調べているらしい。

 細かいところによく気が付く。


『試食会ではカレー味の人気が特に高く、追加で試食を求められる場面もありました』


『シーフード味も好評ですが、こちらは商人からの評価が高い印象です』


『契約の可能性は十分あります』


『帰還までに一件でも多くの販路を確保できるよう努力します』


 最後の一文はエマらしかった。

 短いが力強い。

 俺は二通の手紙を机の上へ並べた。

 東も西も順調。

 それだけで十分な成果だった。

 少なくとも送り出した判断は間違っていなかったらしい。

 そして何より。

 モフク商会が少しずつこの領の外へ広がり始めていることを実感できた。

 まだ契約は成立していない。

 だが、その日は確実に近付いている。


 ◇◇◇


 報告を確認したあと、俺は帳簿を開いた。

 現在の在庫量を確認する。

 以前より増えてきている。

 毎日千三百個以上生産しているのだ。

 増える速度がおかしい。


「やっぱり販路だな」


 思わず呟く。

 倉庫を増やすだけでは解決しない。

 配送員を増やすだけでも解決しない。

 最終的には売る先が必要なのだ。


 ◇◇◇


 夕方。

 仕事を終えて帰宅する。

 最近は家族で夕食を囲む時間も以前より少し遅くなっていた。


「今日も忙しかった?」


 母が聞く。


「結構ね」


 俺は頷いた。


「昔は畑の出来だけ気にしていたんだがな」


 父は苦笑した。


「今は商会の売上や在庫の話ばかりだ」


「嫌だった?」


「いや」


 父は首を振る。


「正直面白い」


 笑って答えていた。


「リックたちの報告が届いたんだ」


「どうだったの?」


「順調みたい」


 その言葉に父も安心したようだった。


「それは良かった」


「うん」


「失敗したらどうしようかと思ってた」


 正直な感想だった。

 初めて任せた大きな仕事だ。

 不安がなかったと言えば嘘になる。


 ◇◇◇


 食後。

 一人で窓の外を見る。

 町の夜景が広がっていた。

 村にいた頃には見られなかった景色だ。

 商会を作った。

 従業員を雇った。

 町へ移住した。

 そして今、他領へ販路を広げようとしている。

 たった一年ほど前には想像もしていなかった。

 ふとスキルのことを思い出す。

 千三百五十九個。

 この数字もいつか二千になるのだろうか。

 三千になるのだろうか。

 正直分からない。

 だが一つだけ確かなことがある。

 【NISSIN】はまだ成長を続けている。

 そしてモフク商会も同じだ。

 東へ向かったリックたち。

 西へ向かったエマたち。

 彼らが持ち帰る結果次第で、商会はさらに大きく変わるだろう。

 俺は静かに夜空を見上げた。

 まだ始まったばかりだ。

 けれど、少しずつ確実に前へ進んでいる。

 そんな実感があった。


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