第23話 新しい仲間
営業担当募集の張り紙を出してから数日。
予想以上に多くの応募者が集まっていた。
もっとも、これはモフク商会だからというより、町で急成長している商会だからだろう。
商会を設立したのはまだ数か月前。
それなのに倉庫を借り、従業員を雇い、取引先を増やし続けている。
噂好きの商人たちの間では、それなりに話題になっていた。
◇◇◇
朝。
いつものようにスキルを確認する。
『生成可能商品:カップヌードル』
『生成可能商品:カップヌードル シーフード』
『生成可能商品:カップヌードル カレー』
『本日の生成可能回数:1294/1294』
「また増えたな」
昨日よりも二十以上増えている。
もう千個台にも慣れてしまった。
俺は倉庫へ向かい、いつものように商品を生成する。
大量のカップヌードルが次々と現れていく。
しょうゆ。
シーフード。
カレー。
今では三種類になったため、仕分け作業だけでも以前より時間がかかるようになっていた。
「会頭」
トムが声をかけてくる。
「応募者が来ています」
「もう来たの」
「はい」
思ったより早い。
俺は手を止めて事務室へ向かった。
◇◇◇
部屋には五人の男女が座っていた。
年齢も経歴も様々だ。
俺は一人ずつ話を聞いていく。
配送経験者。
倉庫作業経験者。
元商人見習い。
どれも悪くない。
だが今回特に欲しいのは営業担当だ。
他領へ行き、新しい取引先を開拓する人材。
そうなると求めるものも変わってくる。
◇◇◇
一人目。
茶色の髪をした青年だった。
「名前は?」
「リックです」
年齢は十九歳。
以前は行商隊で働いていたという。
「行商隊?」
「はい。三年ほどです」
「どの辺りを回っていたの?」
「この領の東側ですね。隣領にも何度か」
俺は少し興味を持った。
土地勘がある。
それだけでも大きい。
「商談の経験は?」
「補助程度ですがあります」
受け答えも悪くない。
緊張はしているが、言葉はしっかりしていた。
◇◇◇
二人目。
黒髪の女性だった。
「名前を」
「エマと申します」
二十二歳。
落ち着いた雰囲気がある。
「以前の仕事は?」
「父の商店を手伝っていました」
「商店?」
「雑貨店です」
帳簿管理。
仕入れ。
接客。
ある程度は経験しているらしい。
「数字は得意ですか?」
「得意な方だと思います」
即答だった。
しかも自信がある。
少なくとも嘘ではなさそうだ。
◇◇◇
面談を終えたあと。
俺は父と相談していた。
「どう思う?」
「リックは悪くないな」
父が言う。
「行商経験は大きい」
「だよね」
「エマも良い」
こちらも意見は一致していた。
他の応募者は配送担当として採用しよう。
「じゃあ営業はこの二人だな」
「そうだな」
こうして採用者が決まった。
◇◇◇
午後。
再び二人を呼ぶ。
向かい合って座るリックとエマは少し緊張しているようだった。
「まずは」
俺は言った。
「採用です」
二人の表情が明るくなる。
「ありがとうございます」
「よろしくお願いします」
ほぼ同時に頭を下げた。
◇◇◇
「ただし」
俺は続ける。
「一つ確認したいことがあります」
二人が顔を上げる。
「今回の募集は営業担当です」
「はい」
俺は現在の状況を説明した。
増え続ける生産量。
取引先の拡大。
倉庫不足。
そして販売先不足。
話を聞きながら二人の表情も真剣になっていく。
◇◇◇
「つまり」
リックが言った。
「他領へ営業に行くんですね」
「そうなる」
「いきなりですか?」
「いきなり」
俺が答えると、リックは少し驚いた顔をした。
無理もない。
普通なら新人に任せる仕事ではない。
「不安ですか?」
エマが聞いた。
「正直に言えば少し」
リックは苦笑する。
「でも面白そうです」
「面白そう?」
「はい」
彼は笑った。
「噂は聞いていましたから」
「噂?」
「カップヌードルです」
なるほど。
応募してきた理由の一つでもあるのだろう。
「こんなに広まる商品なんて見たことがありません」
その言葉にエマも頷いた。
「私も同じです」
「エマも?」
「はい」
彼女は少し笑った。
「正直、将来性があると思いました」
随分と率直だった。
だが嫌いではない。
◇◇◇
「もちろん二人だけでは行かせない」
俺は続ける。
「先輩も同行する」
そう言って呼んだ。
「トム」
「はい」
「ガルド」
「おう」
二人が部屋へ入ってくる。
◇◇◇
「紹介するよ。配送主任のトムとガルドだ」
リックとエマが頭を下げる。
トムも軽く会釈した。
ガルドはいつもの仏頂面だ。
「今回の営業は二組で動く」
俺は地図を広げた。
「東方面」
指を置く。
「トムとリック」
「了解です」
トムが頷く。
リックも真剣な表情になった。
「西方面」
今度は反対側を指差す。
「ガルドとエマ」
ガルドが頷き、エマも静かに頷いた。
「よろしくお願いします」
◇◇◇
それから数日。
準備は順調に進んだ。
営業資料。
契約書。
サンプル商品。
各地の商会情報。
持たせるものは多い。
特にカップヌードルは実際に食べてもらうのが一番早い。
しょうゆ。
シーフード。
カレー。
三種類を十分に積み込む。
そしてお湯を沸かすための魔道具も持たせておく。
◇◇◇
そして出発の日。
商会の前には二台の荷馬車が停まっていた。
従業員たちも集まっている。
「通常の配送は新人さんたちに任せてるから安心して行ってきてね」
「それじゃあ行ってきます」
リックが言う。
「頑張って」
俺は答えた。
「会頭」
エマがこちらを見る。
「必ず取引先を増やしてみせます」
「期待してるよ」
「はい」
力強い返事だった。
やがて荷馬車が動き出す。
一台は東へ。
一台は西へ。
町の門を抜け、少しずつ小さくなっていく。
俺はその姿を見送りながら考えていた。
商会を作った頃は、全て自分でやるしかなかった。
商品を運び。
取引を行い。
管理もする。
だが今は違う。
従業員がいる。
任せられる人がいる。
だからこそ、もっと先へ進める。
◇◇◇
その日の夜。
いつものようにスキルを確認する。
『生成可能商品:カップヌードル』
『生成可能商品:カップヌードル シーフード』
『生成可能商品:カップヌードル カレー』
『本日の生成可能回数:0/1318』
「もう千三百個台か」
思わず苦笑する。
トムたちが販路を広げれば、この数字はさらに伸びるだろう。
倉庫も増える。
従業員も増える。
商会も大きくなる。
モフク商会は今、新しい一歩を踏み出したばかりだった。
そしてその一歩は、これまでで最も大きな一歩になるかもしれなかった。




