↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
21/33

第21話 新しい味

 商会を設立してから二か月。

 モフク商会は順調に成長を続けていた。

 もっとも、商会と言っても今のところは卸売専門だ。

 店を構えて一般客へ直接販売することはしていない。

 毎朝俺が【NISSIN】でカップヌードルを生成し、それを倉庫へ運ぶ。そこから各商会や行商人へ商品を卸す。

 最初に取引を始めた村の商会。

 ベルク商会。

 そして行商人のダン。

 さらにこの二か月で取引先は少しずつ増えていた。

 今では近隣の町へ商品を運ぶ商人も現れ始めている。

 もちろん、すべてが順調だったわけではない。

 帳簿の付け方を覚えたり、商品の管理方法を考えたり、倉庫の整理をしたりと、慣れないことは山ほどあった。

 それでも商会は回っている。

 それどころか、予想以上に上手くいっていた。


◇◇◇


「おはようございます、会頭」


 朝。

 倉庫へ向かうと声がかかった。

 振り返ると、大きな木箱を抱えた男が手を上げている。

 トムだ。

 二十五歳。

 モフク商会で最初に雇った従業員の一人である。

 短い茶髪に日焼けした肌。

 元々は運送業の手伝いをしていたらしく、荷物運びには慣れていた。


「おはよう」


「今日はベルク商会へ行ってきます」


「よろしく」


「任せてください」


 頼もしい返事だった。

 その奥では、もう一人の従業員が荷車を点検している。

 ガルド。

 三十一歳。

 無口だが真面目な男だ。

 こちらも運搬経験があり、仕事は正確だった。


「ガルド」


「はい」


「荷車は大丈夫そう?」


「問題ありません」


 それだけ言うと再び車輪を確認し始める。

 相変わらず口数は少ない。

 だが仕事は丁寧だ。

 この二人のおかげで、俺自身が配達に出る必要はほとんどなくなった。

 以前は毎日のように荷車を引いて町中を走り回っていた。

 今では生成と管理が主な仕事になっている。

 人を雇う意味がよく分かった。

 全部を一人でやるのは無理なのだ。


◇◇◇


 倉庫の扉を開く。

 中には大量のカップヌードルが積まれていた。

 二か月前なら想像もできなかった量だ。

 ただ、それも今では見慣れた光景になっている。


「さて」


 俺はスキルを開いた。

 毎朝の日課だ。

 そして――。


『生成可能商品:カップヌードル』


『本日の生成可能回数:1008/1008』


「……千個超えたのか」


 思わず声が漏れた。

 表示を見直す。

 間違いない。

 1008個。

 ついに四桁だ。

 一個しか出せなかった頃から考えれば、とんでもない数字だった。

 家族四人で分け合っていたあの日。

 一つのカップヌードルを少しずつ食べていた頃。

 それを思い出す。

 あの頃の俺が見たら卒倒するかもしれない。


「千個か……」


 感慨深く呟いた、その時だった。

 突然、表示が変化する。


『条件達成』


「ん?」


 見慣れない文字。

 続いて新しい表示が現れた。


『新商品が解放されました』


『カップヌードル シーフード』


『カップヌードル カレー』


「……え?」


 一瞬、理解が追いつかなかった。

 新商品。

 つまり。


「味が増えた?」


 思わず立ち尽くす。

 これまではずっと同じカップヌードルだった。

 商品名も変わらなかった。

 だから増えるとは思っていなかったのだ。

 だが表示は確かにそう書いている。

 シーフード。

 カレー。

 どちらも前世で見慣れた名前だった。


「まさかここで増えるとは……」


 千個到達が条件だったのだろうか。

 理由は分からない。

 だが増えたものは増えた。

 なら試すしかない。


◇◇◇


 昼。

 家族全員を呼び集めた。


「新しい味?」


 母が首を傾げる。


「本当?」


 アリアは目を輝かせた。


「本当」


 俺はテーブルに三種類のカップヌードルを並べる。

 しょうゆ。

 シーフード。

 カレー。

 見慣れた三種類だった。


「増えたの?」


「増えた」


 アリアが大喜びする。

 さっそくお湯を入れ、待つこと三分。

 まずは試食だ。


「いただきます」


 全員で手を合わせる。

 そして食べる。

 最初に反応したのは父だった。


「……これだな」


「どれ?」


「シーフード」


 父は頷いた。


「うまい」


 気に入ったらしい。

 魚介の旨味が効いたスープは、この世界の人間にも分かりやすい美味しさなのだろう。


「私はこっちかしら」


 母はカレーを選んだ。


「香りがいいわね」


 確かにカレーの匂いは強い。

 食欲を刺激する。


「アリアは?」


「カレー!」


 即答だった。

 予想通りである。

 妹は夢中になって食べていた。


「お兄ちゃん! これ好き!」


「そうか」


「毎日これでもいい!」


「それはやめてくれ」


 思わず笑ってしまう。

 そして俺自身は。


「やっぱりこれかな」


 しょうゆ味を手に取った。

 結局、一番慣れている味だ。

 もちろんシーフードもカレーも美味しい。

 だが一番好きなのは昔から変わらなかった。


◇◇◇


 翌日。

 さっそく新商品を各取引先へ持ち込んだ。

 ベルク商会。

 最初の小商会。

 その他の取引先。

 どこも反応は似たようなものだった。


「新商品ですか?」


 ハリーが目を丸くする。


「はい」


 俺は三種類を並べる。


「しょうゆ味以外に増えました」


「これは……」


 ハリーは興味深そうに見比べる。

 そして試食。

 数分後。


「売れますね」


 即答だった。


「早いですね」


「分かります」


 ハリーは断言する。


「同じ商品でも味の選択肢があると客は喜びます」


 それは前世でも同じだった。


「特にカレーは人気が出そうですね」


「そう思いますか?」


「ええ」


 ハリーは笑った。


「子供も好きそうです」


 アリアの顔が浮かんだ。

 たしかにその通りかもしれない。


◇◇◇


 結果は予想以上だった。

 数日後には追加注文が入る。

 シーフード。

 カレー。

 どちらも好評。

 もちろん従来のしょうゆ味も売れている。

 三種類になったことで、むしろ全体の売上が伸びた。


「また追加ですか」


 トムが驚く。


「最近すごいですね」


「本当に」


 ガルドまで珍しく同意した。

 取引先も増えている。

 商品を扱いたいという商人も増えている。

 カップヌードルの名前は少しずつ広がり続けていた。


◇◇◇


 夜。

 仕事を終えた俺は帳簿を閉じた。

 そしてスキルを確認する。


『生成可能商品』


『カップヌードル』


『カップヌードル シーフード』


『カップヌードル カレー』


 三種類。

 少し前まで一種類しかなかった。

 それが今では三種類だ。

 生産数は千個を超えた。

 商会も動いている。

 従業員もいる。

 取引先も増えている。


「早いな」


 思わず呟く。

 商会を作ると決めたのが、ずいぶん昔のことのように感じた。

 もちろん、まだ終わりではない。

 むしろ始まったばかりだ。

 取引先は増え続けている。

 【NISSIN】も成長を続けている。

 そして何より――。

 このスキルがどこまで成長するのか、まだ誰にも分からない。

 俺は窓の外を見た。

 町の灯りが夜の中に浮かんでいる。

 カップヌードルは今日も各地へ運ばれていった。

 町へ。

 村へ。

 そして、まだ見ぬ土地へ。

 新しい味と共に、その名前は少しずつ広がり続けていた。

 【NISSIN】の成長も、まだ止まる気配はなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。