第15話 商会設立について
翌朝。
『生成可能商品:カップヌードル』
『本日の生成可能回数:120/120』
「百二十個か」
百十一個だった昨日から、さらに増えている。
もう驚く数字ではない。
そう思いながらも、俺は表示を何度か見直した。
百個を超えてからも増加は止まらない。
むしろ勢いを増しているようにさえ見える。
だが、今の俺が気にしているのは数字そのものではなかった。
「町に行くのか?」
朝食の席で父が聞いた。
「うん」
俺は頷く。
「ハリーさんに聞きたいことがあるんだ」
昨日から考えていたことだった。
商会。
倉庫。
人手。
輸送。
商品が増え続けるなら、いずれ必要になるものばかりだ。
俺には知識がない。
だから知っている人に聞く。
それだけの話だった。
「俺も一緒に行こうか?」
父が言う。
だが俺は首を振った。
「仕事があるでしょ」
「それはそうだが……」
心配そうな顔になる。
母も同じだった。
「一人で大丈夫?」
「町には何度か行ってるよ」
「それでも心配なのよ」
前世の感覚だと十歳で一人歩きは普通だった。
だが、この世界では少し違う。
特に村の外へ出るとなればなおさらだ。
「昼までには着くし、ベルク商会に行くだけだから」
「うーん……」
父は腕を組んだ。
「道は分かるんだな?」
「分かる」
「変な奴についていくなよ」
「行かないよ」
「知らないものを食べるな」
「子供じゃないんだから」
「子供だろう」
その言葉に家族全員が笑った。
◇◇◇
朝食を終えると、俺は町へ向かった。
今日はカップヌードルの納品ではない。
商会への相談だ。
だから荷車もない。
身軽なものだった。
道は何度か通っている。
村から町までは半日もかからない。
途中で行商人の荷車とすれ違い、軽く挨拶を交わしながら進む。
空は晴れていた。
風も穏やかだ。
歩きながら、俺は昨日書いた紙の内容を思い出していた。
倉庫。
人手。
輸送。
商会。
今はまだ百二十個。
だが、このままなら二百個も三百個も遠くない。
そのときになって慌てるより、今から準備しておくべきだろう。
「まずは聞いてみるか」
知らないことを考えても仕方ない。
知っている人に聞く。
前世でも同じだった。
◇◇◇
昼前。
町へ到着した。
村とは比べものにならない人の数だ。
荷車が行き交い、商人たちが声を上げている。
何度来ても活気がある。
俺はベルク商会へ向かった。
大きな建物だ。
初めて見るとやけに立派で驚いた。
入口には従業員らしい男が立っている。
「何かご用ですか?」
「モフクです」
そう名乗ると、男の表情が少し変わった。
「ああ、カップヌードルの」
「はい」
「少々お待ちください」
男はすぐに奥へ入っていった。
しばらく待つ。
すると、先ほどの男が戻ってきた。
「ハリー様がお会いになります」
「ありがとうございます」
◇◇◇
案内された部屋で待っていると、ほどなくして扉が開いた。
「これはこれは」
聞き慣れた声だった。
「モフク君」
ハリーだ。
相変わらず穏やかな笑顔を浮かべている。
「こんにちは」
「今日は納品ではなかったはずですが」
「相談です」
「相談?」
ハリーが興味深そうに眉を上げた。
「面白そうですね」
そう言いながら席を勧める。
俺も素直に座った。
◇◇◇
「それで、相談というのは?」
俺は少しだけ言葉を選んだ。
「商会の設立について聞きたいんです」
その瞬間。
ハリーの笑顔が少しだけ変わった。
驚いたような。
あるいは感心したような。
そんな表情だった。
「……商会を作りたいのですか?」
「今すぐじゃありません」
俺は正直に答える。
「でも、最近ずっと考えていて」
百個を超えた生産量。
増え続ける販路。
保管場所の問題。
それらを簡単に説明した。
ハリーは途中で口を挟まない。
最後まで聞いていた。
◇◇◇
「なるほど」
話を聞き終えたハリーは頷いた。
「だから商会ですか」
「はい」
「面白いですね」
そう言って背もたれに身体を預ける。
「正直に言えば、私はもっと後になって考えると思っていました」
「そうなんですか?」
「ええ」
ハリーは笑った。
「ですが、考え始めるのは早い方がいいでしょう」
そう言って指を一本立てる。
「まず、商会を作ること自体は可能です」
「十歳でも?」
「可能です」
俺は少し驚いた。
もっと厳しいものだと思っていた。
「ただし制限はあります」
「制限?」
「成人していないので、後見人が必要になるでしょう」
やはりそこか。
父か母。
あるいは別の大人が必要になるらしい。
「それから商人ギルドへの登録」
「ギルド」
「商会を正式に運営するなら必要です」
俺は頭の中でメモを取る。
後見人。
商人ギルド。
まずはその二つ。
「他には?」
「資金ですね」
「お金か」
「当然です」
ハリーは笑った。
「倉庫も無料ではありません。建物も、人も、荷車も、全て金が必要です」
それは分かる。
問題はどれくらい必要なのかだ。
「かなり必要ですか?」
「規模によります」
そう言ってハリーは少し考える。
「ですがモフク君の場合は、少々特殊ですね」
「特殊?」
「普通の商会は売る商品を探すところから始めます」
「ああ」
「ですが君には最初から商品がある」
カップヌードル。
確かにそれは大きい。
「しかも売れる商品です」
ハリーは断言した。
「これは大きな強みですよ」
俺は少し複雑な気分になった。
やはり褒められるのは慣れない。
凄いのは俺ではなくNISSINなのだから。
だがハリーは気にした様子もなく続けた。
「もし本気で考えるなら、今から商人ギルドを見学してみますか?」
「見学?」
「ええ」
ハリーは笑う。
「聞くだけでは分かりませんから」
その提案に、俺は少しだけ前のめりになった。
商人ギルド。
この世界の商売の中心。
知らないことを知るには、確かに悪くない場所かもしれない。
「ぜひお願いします」
「では案内しましょう」
ハリーが頷く。
そして俺も頷き返した。
どうやら、思っていたよりずっと面白い話になりそうだった。




