↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/33

第12話 さらに広がる販路

 翌朝。


『生成可能商品:カップヌードル』

『本日の生成可能回数:57/57』


「……五十七か」


 昨日の五十二個から、五個増えている。

 ここ最近は、毎日のように生成可能数が増えている。以前のように「明日は何個になるだろう」と一個ずつ数えるような感覚ではなくなってきた。

 それでも、五十七という数字を見れば多少は驚く。

 最初は一個だった。

 家族四人で分け合って、それでも足りないと思っていた。

 それが今では、家族が食べる分を確保しても、商人にまとまった数を渡せるところまで来ている。


「今日はどうする?」


 朝食の席で父に聞かれ、俺は少し考える。


「昨日と同じかな。家族で四個食べて、残りは商会に持っていく」


「五十七個全部か?」


「うん。今日はその予定」


 俺がそう答えると、妹のアリアが目を輝かせた。


「じゃあ、今日もいっぱいあるんだ!」


「いっぱいあるな」


「毎日増えてるよね」


「そうだな」


 最初の頃は、一個増えるだけでも大騒ぎだった。

 今では五個増えたことを見ても、家族の反応はずいぶん落ち着いている。

 慣れというものは恐ろしい。

 ただ、俺自身はまだ慣れきっていない。

 この世界に生まれ変わってから十年。

 魔法があることには慣れた。

 村で暮らすことにも慣れた。

 けれど、前世で当たり前だったカップヌードルが、今では商売の中心になっているという状況には、いまだに妙な感覚があった。

 俺が作った商品ではない。

 俺が開発したわけでもない。

 俺はただ、この【NISSIN】というスキルを使って呼び出しているだけだ。

 それでも、この世界では確かに価値のある商品になっている。


「……とりあえず、食べようか」


「うん!」


 五十七個のうち、家族で食べるのは四個。

 残りは商会へ。

 いつものように水を魔法で用意し、火魔法で湯を作る。


「相変わらず見事だな」


「毎日やってるからね」


「それでも簡単にできることじゃないぞ」


 父の言葉に笑いながら、四人分のカップヌードルを作る。


「三分」


「もう食べていい?」


「まだ」


「……まだ?」


「まだ」


「三分って長いね」


 アリアが恨めしそうにカップを見る。


「いつも同じこと言ってるぞ」


「だって、お腹すいてるんだもの」


 そんな会話をしながら三分を待ち、いつものように「いただきます」と声を揃える。

 食事を終えたあと、俺は残りの五十三個をまとめて持ち出した。

 最近では量が増えたせいで、運ぶことそのものが少し大変になっている。

 最初の五個なら両手で十分だった。

 十個なら少し大きめの袋で済んだ。

 今では五十個を超える。

 さすがに一人で抱えて歩くには多い。

 そこで最近は、商会へ持っていくための荷車を用意してもらっている。

 商売というものは、商品そのものだけを考えていればいいわけではないらしい。

 運ぶこと。

 保管すること。

 売ること。

 そして、売った後にまた商品を補充すること。

 カップヌードルの数が増えるにつれて、今まで考えなくてもよかったことまで少しずつ増えてきた。

 そんなことを考えながら商会へ向かう。

 そして店に着くと、昨日と同じように忙しそうな様子が目に入った。


「来たか、モフク」


「おはようございます」


「ちょうどよかった」


 店主が俺のところまで歩いてくる。


「昨日の分も、ほとんど売れたぞ」


「全部じゃないんですか?」


「夕方までにはなくなった。今朝、最後の一つが売れた」


「それなら、今日の分も問題なさそうですね」


「ああ」


 店主はそう言ってから、少しだけ苦笑した。


「……ただな」


「はい?」


「もう、うちだけで売るのは難しくなってきた」


 その言葉には、昨日ハリーから聞いた話と同じ意味が含まれていた。

 需要が増えている。

 そして、俺が一日に出せる数も増えている。

 どちらも、最初の頃とは比べものにならない。


「ベルク商会の話ですね」


「ああ」


 店主は頷いた。


「昨日の話、俺も考えた」


「どうでした?」


「ハリーさんの言う通りだと思う」


 その答えに、俺は黙って聞く。


「ベルク商会なら、うちより広い範囲に売りに行ける。人もいるし、馬車もある。取引先も多い」


「でも、ここからも売りたい」


「もちろんだ」


 店主は即答した。


「俺はこの商品を最初に扱った。それに、今まで売ってきた客との繋がりもある。だから、これからも売りたい」


「だったら……」


 俺が言葉を探していると、店主が先に続けた。


「両方に卸せばいい」


「両方?」


「ああ。ベルク商会にも渡す。うちにも渡す。それでいいだろう」


 その言葉を聞いて、少しだけ肩の力が抜けた。

 独占。

 昨日、ハリーの話を聞いたときに、俺が一番気になっていたのがそれだった。

 もしベルク商会に「この商品はうちだけに卸してくれ」と言われていたら、話は変わっていた。

 ベルク商会の規模を考えれば、今の俺には魅力的な話だ。

 だが、それに頼り切ってしまうのは怖い。

 カップヌードルが今後どこまで増えるのかは分からない。

 今は五十個程度だが、百個になったら。

 二百個になったら。

 もっと増えたら。

 そのとき、一つの商会だけに任せることができるのだろうか。

 俺には、そうは思えなかった。


「じゃあ、今日ハリーさんと話してみます」


「ああ。俺も立ち会う」


◇◇◇


 昼前。

 店に一台の馬車が止まった。

 少しして、昨日会った男が店に入ってくる。


「こんにちは」


「ハリーさん」


「昨日ぶりですね、モフク君」


 ハリーはいつも通り穏やかな笑顔を浮かべていた。

 昨日と違うのは、その後ろに二人の男がいることくらいだ。

 どちらも商人らしい服装で、俺たちが扱っている商品や店内の様子を注意深く見ている。


「今日は正式な話をしに来ました」


「契約の話ですね」


「ええ」


 ハリーは頷く。


「ベルク商会として、カップヌードルを定期的に仕入れたい」


「どれくらいですか?」


「まずは、現在の生産量の中から一定数を」


 ハリーは少し考えてから続ける。


「今の五十個前後なら、二十個から三十個ほど」


「結構多いですね」


「売れる見込みがありますから」


 その言葉に、俺は少し考えた。

 家族が四個。

 今の商会に渡している分。

 そしてベルク商会。

 五十七個程度なら、なんとかなる。

 だが、これからさらに増える可能性がある。


「一つ、条件があります」


「なんでしょう?」


「独占にはしないでほしいです」


 ハリーが少しだけ目を細めた。


「つまり?」


「ベルク商会に商品を多めに卸すことはできます。でも、ベルク商会だけに売るという契約にはしたくありません」


 店主も頷く。


「うちにも今まで通り卸してほしい」


「もちろんです」


 ハリーは意外なほどあっさり答えた。


「私も独占契約を求めているわけではありません」


「そうなんですか?」


「ええ。むしろ、独占する必要がないと思っています」


 ハリーは店内に積まれているカップヌードルを見る。


「この商品は、まだ売り始めたばかりです。それなのに、すでに村だけでなく、この町まで噂が広がっている」


 そして、俺を見る。


「これから生産量が増えるなら、販路も一つでは足りません」


「……」


「なら、最初から複数の商会が扱えるようにしておいたほうがいい」


 その言葉には、商人としての現実的な判断があった。


「ただし、ベルク商会には一定量を優先的に卸していただきたい」


「優先?」


「ええ。毎回余った分だけでは困りますからね。一定量を確保していただきたいのです」


 それなら話は分かる。


「どれくらいですか?」


「まずは二十個」


 俺は少し考えた。

 今の生産量なら問題ない。


「分かりました」


「それから、売れ行きを見ながら増やしていきたい」


「生産できる数が増えたら、ですね」


「ええ」


 俺は頷いた。


「それでお願いします」


 ハリーが笑う。


「では、契約成立ですね」


 こうして、俺とベルク商会との取引が始まった。

 ベルク商会には毎回一定数を優先して卸す。

 これまでの小さな商会にも、これまで通り卸す。

 そして、どちらにも独占権は与えない。

 今の俺にとっては、それが一番自然な形だった。


◇◇◇


 契約を終え、ハリーたちが帰ったあと。

 店主が俺に声をかけてきた。


「モフク」


「はい?」


「本当にこれでよかったのか?」


「何がです?」


「ベルク商会はうちよりずっと大きい。もしベルク商会だけに売る契約を結べば、もっと話は簡単だったかもしれないぞ」


「でも、それだと今後困ると思います」


「今後?」


「はい」


 俺は店の中を見回した。

 棚に並んでいるカップヌードル。

 それを買っていく客。

 店の外を通る人。

 そして、これからベルク商会が運んでいく商品。


「今はまだ五十個くらいですけど、毎日のように増えています」


「ああ」


「だから、一つの商会だけで売り切れる数じゃなくなるかもしれません」


 店主が黙る。


「だったら、最初から売る場所は多いほうがいいですよね」


「……なるほどな」


 店主は少し笑った。


「十歳の子供とは思えないことを言うな」


「そうですか?」


「普通なら、目の前の大きな商会に全部任せたくなるもんだ」


 俺は少しだけ苦笑する。


「俺は商売については、まだ何も分かってないですよ」


 これは本当だ。

 前世では会社員といってもシステムエンジニアだった。

 給料をもらってシステムの構築、運用をしていただけで、自分で商売をしていたわけではない。

 それでも、今は一つだけ分かることがある。

 カップヌードルは売れる。

 そして、食べた人がまた買う。

 その繰り返しが続けば、商品を必要とする人は増えていく。

 だったら、売る場所も増やしておいたほうがいい。


「それに……」


「それに?」


「俺が作った商品じゃないですから」


 思わず口に出す。

 店主が首を傾げた。


「どういう意味だ?」


「いえ。なんでもないです」


 俺は笑って誤魔化した。

 カップヌードルは俺が考えたものではない。

 この世界で俺が発明したものでもない。

 ただ、俺の【NISSIN】というスキルから出てくるだけだ。

 だからこそ、この商品がどこまで広がるのかは俺自身にも分からない。

 ただ一つ確かなのは、最初は一個だったものが、今では五十個を超え、複数の商人が扱いたいと言うところまで来ていることだ。

 そして今日、販路はさらに一つ増えた。

 小さな村の商会。

 行商人のダン。

 町のベルク商会。

 それぞれが違う場所へ商品を運ぶ。

 俺自身がすべてを売り歩かなくても、カップヌードルは人から人へ渡っていく。

 その先で誰かが食べれば、また【NISSIN】の成長にも繋がる。


「……面白くなってきたな」


 思わず呟く。

 最初は、家族四人で一つのカップヌードルを分け合っていた。

 それが今では、何十人という人の食卓に届こうとしている。

 そして、明日の生成数は――。

 今日より多くなる。

 その確信があった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。