第10話 足りない
目を覚ました俺は、いつものように【NISSIN】を確認した。
『生成可能商品:カップヌードル』
『本日の生成可能回数:35/35』
昨日と同じ数字だった。
「今日は増えてないか」
最近は一日で何個も増えることが珍しくなくなっていたため、少しだけ物足りなく感じる。
だが、すぐに首を振った。
三十五個だ。
つい少し前まで十九個で喜んでいたのに、今では三十五個を少ないと感じている。
感覚がおかしくなっている気がした。
俺は苦笑しながらベッドを降りた。
窓の外を見る。
朝日が昇り始めた村は静かだった。
鶏の鳴き声が聞こえる。
畑へ向かう村人たちの姿も見える。
いつもと変わらない村だ。
だが、この村から生まれたカップヌードルは、もう村の外へ広がり始めている。
そう思うと少し不思議な気分だった。
◇◇◇
朝食を終えた後、俺は三十五個のカップヌードルを生成した。
ぽんっ。
ぽんっ。
ぽんっ。
慣れた作業だったが、数が増えたことで時間も少しかかるようになった。
机の上だけでは置ききれず、床にも並べる。
以前なら一個出すだけだった。
今では三十五個。
並んだカップヌードルの列を見ていると、自分でも少し笑ってしまう。
「増えたなぁ……」
本当に増えた。
家族四人で食べる分を取り分ける。
残りは出荷用だ。
数えてみると三十一個。
以前なら大商売だっただろう。
だが最近は、それでも足りないと言われる。
需要の増え方が異常なのだ。
◇◇◇
昼前。
俺は父と一緒に商会へ向かった。
荷車にカップヌードルを積んで運ぶ。
三十一個ともなると、さすがに手では持ちきれない。
村の道を進みながら、俺は少し考えていた。
最近、売上が目に見えて増えている。
貨幣袋も重くなった。
だが、それ以上に変わったことがある。
商会の様子だ。
最初は試しに五個置いただけだった。
今では毎日のように追加を求められている。
それだけならまだいい。
問題は、その量だった。
三十個以上持ち込んでいるのに足りない。
どう考えてもおかしい。
村の人口には限界があるはずなのだ。
◇◇◇
商会へ到着すると、店主は俺を見るなり顔を明るくした。
「来たか!」
その声に、俺は少し嫌な予感を覚える。
最近の店主は、この顔をするとろくなことを言わない。
「持ってきました」
「全部置いていってくれ」
「全部ですか?」
「ああ」
即答だった。
俺は荷車を見る。
三十一個。
かなりの量だ。
それを全部と言った。
「足ります?」
「足りん」
「え?」
「全然足りん」
店主は頭を抱えた。
「昨日の夕方には棚が空になった」
「早すぎません?」
「俺もそう思う」
だが本当に売れてしまうらしい。
店主はため息を吐いた。
「最近じゃ村の連中より、村の外から来る客の方が多い」
「そんなにですか」
「ああ」
どうやら状況は俺が思っている以上に進んでいるようだった。
◇◇◇
そのときだった。
「おお、いたいた!」
聞き覚えのある声がした。
振り返るとダンだった。
相変わらず大きな荷車を引いている。
「モフク!」
「こんにちは」
「大変だぞ!」
会うなりそれだった。
俺は思わず苦笑する。
「何がですか?」
「足りない!」
店主と同じことを言った。
俺は瞬きをする。
「またですか」
「まただ!」
ダンは大きく頷いた。
「前回持っていった分なんて、着いた日に半分なくなったぞ!」
「そんなに?」
「ああ!」
ダンは興奮した様子だった。
「しかもな!」
「はい」
「今度は村じゃない!」
「?」
「町だ!」
町。
その言葉に俺は少し驚いた。
今までは村だった。
隣村。
さらにその先の村。
そうやって広がっていた。
だが町となると話が違う。
人口が一気に増える。
当然、客の数も増える。
「売れると思います?」
俺が尋ねると、ダンは笑った。
「売れる」
断言だった。
「むしろ足りなくなる」
その言葉に、店主が大きく頷いた。
「俺もそう思う」
なぜか二人とも確信している。
商人の勘というやつだろうか。
◇◇◇
帰宅した後も、俺はその話を考えていた。
町。
ついにそこまで来た。
最初は家族四人で分け合って食べていた。
それが今では町で売る話になっている。
少し前なら想像もしていなかった。
机の上に広げた記録を見る。
数字は毎日のように増えていた。
そして出荷量も増えている。
当然だ。
食べる人が増えれば増えるほど、【NISSIN】は成長する。
今までの結果がそれを証明していた。
ならば町へ広がったらどうなるのか。
考えるだけで恐ろしい。
◇◇◇
翌朝。
目を覚ました俺は、半ば習慣になった動作で【NISSIN】を確認した。
『生成可能商品:カップヌードル』
『本日の生成可能回数:39/39』
「四個増えたか」
予想通りだった。
むしろ少ないくらいかもしれない。
俺は記録に数字を書き込む。
三十九。
着実に増えている。
だが今の問題は生産量ではない。
販路だ。
食べる人の数が増え続けている。
今の三十九個ですら足りないと言われている。
なら五十個になったら?
六十個になったら?
百個になったら?
考えているうちに、あることに気付いた。
「もしかして……」
俺は記録を見つめる。
最初は店主一人だった。
次にダン。
今では複数の村。
そして町。
販路はどんどん広がっている。
だが商品を扱っているのは、相変わらず村の小さな商会だけだ。
そこに全ての注文が集まっている。
「そのうち限界が来るんじゃないか?」
そう呟いた。
三十九個ですら足りない。
今後さらに増える。
そうなれば、店主一人では管理しきれなくなるはずだ。
だが、その答えを確かめるより早く。
その日の昼。
商会へ向かった俺は、店の前に見慣れない馬車が止まっているのを見つけることになる。
そして、その馬車こそが――。
NISSINのカップヌードルを、さらに大きな世界へ運ぶことになる最初のきっかけだった。




