第八話 私、もしかしてチート能力者ですか?
その日の朝。
「ミヤ!」
厨房から、食器たちの声が飛んできた。
『大変よ!』
『事件だ!』
『急いで来て!』
「どうしたの!?」
私は慌てて厨房へ走った。
そこには、料理人たちが青ざめた顔で立っていた。
「公爵様の朝食に使うはずだった最高級の紅茶が……」
「どうしたんですか?」
「香りがおかしいんです」
私は紅茶を見る。
普通に見える。
しかし――
『ミヤ!』
ティーカップが叫んだ。
『飲ませちゃ駄目!』
「え?」
『この紅茶、昨日とは違う!』
私はすぐにポットを見た。
『私の中に変なものを入れられたの』
「……毒?」
『たぶんね』
背筋が凍った。
公爵様は過去に何度も毒殺未遂に遭っている。
「公爵様を呼ばないでください!」
私は料理人に言った。
「この紅茶は絶対に出しちゃ駄目です!」
その時だった。
「――何があった?」
最悪のタイミングで、公爵様が現れた。
「公爵様!」
「説明しろ」
私は紅茶を指差す。
「この紅茶には、何か入っています」
「根拠は?」
「……カップが教えてくれました」
沈黙。
公爵様が眉を寄せる。
しかし、次の瞬間。
公爵様の後ろから声がした。
「僕も聞かせてもらおう」
「王子様!?」
第二王子まで来ていた。
「また君か」
「また王子様ですか!」
「面白そうだからな」
王子が紅茶を見つめる。
「では、そのカップに聞いてみてくれ」
「え?」
「本当に毒なのか」
私はカップに触れた。
「教えて」
『毒よ』
即答だった。
しかし、その瞬間。
私の頭の中に、知らない映像が流れ込んできた。
「……え?」
厨房。
昨夜。
誰かが紅茶を持っている。
そして――
見知らぬ男が、何かを入れている。
「見える……」
「ミヤ?」
「昨日、この紅茶を持ってきた人が見えます」
公爵様と王子の顔色が変わった。
「映像が?」
「はい……」
私は目を閉じた。
すると、さらに映像が流れ込んでくる。
男が厨房を出る。
廊下を歩く。
そして――
「……あの肖像画の前で止まっています」
「肖像画?」
王子が走り出した。
私も後を追う。
廊下の先には、一枚の古い肖像画。
『ミヤ』
突然、肖像画が話しかけてきた。
「えっ!?」
『あの男なら、さっき裏口から出ていったぞ』
「……!」
私は窓の外を見る。
遠ざかる人影。
「いました!」
公爵様がすぐに兵士へ命じる。
「追え!」
兵士たちが走っていく。
王子は私を見つめていた。
「……ミヤ」
「はい?」
「君は今、何をした?」
「分かりません」
私は自分の手を見る。
すると、廊下の燭台が突然話し始めた。
『昨日の夜、あいつを見たぞ』
壁の絵が続ける。
『私も見た』
鎧まで声を上げた。
『俺もだ』
「…………」
私は固まった。
今まで聞こえていたのは、目の前にある物の声だけだった。
でも今は違う。
触れていない物まで。
しかも――
その物が見た「過去」まで分かる。
「これ……私の能力?」
王子が目を輝かせる。
「すごい……」
公爵様は黙っていた。
やがて、私の手を見つめる。
「ミヤ」
「はい」
「君は、自分が何者なのか分かっているのか?」
「……分かりません」
『まあまあ!』
五百年前の壺が、廊下の向こうから大声で叫んだ。
『ついに目覚めたのね!』
「女神様!?」
『これはただの「物と話せる能力」じゃないわ』
壺が誇らしげに言う。
『あなたの力は――』
そこで、壺が意味ありげに間を置いた。
『物に残った記憶を読み取る力よ』
「…………」
王子が息を呑む。
公爵様も驚きを隠せない。
そして私は――
「……私、チート能力者ってこと?」
『そういうこと!』
壺が嬉しそうに叫んだ。
「いやいやいや!」
私は頭を抱えた。
「そんな簡単に言われても!」
しかし、さらに恐ろしいことが起こった。
私の周囲にあるすべての物が、一斉にしゃべり始めたのだ。
『ミヤ!』
『私も見たわ!』
『俺も秘密を知ってる!』
『王城の地下に秘密の部屋があるぞ!』
『昔の王様の秘密も知ってる!』
『公爵様の秘密も――』
「待って!」
私は慌てて公爵様を見る。
公爵様が固まっていた。
「……今、何と言った?」
『公爵様の秘密!』
私は叫んだ。
「言わないで!」
すると王子が楽しそうに笑った。
「これは……面白くなってきたな」
「王子様、楽しんでますよね!?」
「ああ」
「公爵様も何か秘密があるんですか?」
「……」
公爵様が黙る。
私は首を傾げる。
すると――
公爵様の胸元にある古いブローチが、ぽつりと呟いた。
『ミヤにはまだ教えちゃ駄目よ』
「…………」
「…………」
公爵様と私の視線がぶつかった。
「公爵様?」
「……今のは聞かなかったことにしてくれ」
「無理です!」
王子が笑う。
「これは王宮に迎える価値が、ますます上がったな」
「王子様、まだ諦めてなかったんですか!?」
私は頭を抱えた。
こうして――
ミヤの「物の声を聞く力」は、過去を見るチート能力へと覚醒した。
そして同時に。
公爵様が絶対に知られたくない秘密まで、ミヤの前に姿を現し始めるのだった。




