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第三話 公爵様、舞踏会へメイドを連れていく

 その日の夕方。

 公爵家の広間に、使用人たちが集められていた。

 中央に立っているのは、もちろん公爵アルベルト様。

 私はその少し後ろで、何が始まるのか分からず立っていた。

「今度、王城で舞踏会が開かれる」

 アルベルト様が告げる。

「私はミヤを連れていく」

「…………え?」

 思わず声が出た。

 広間が一瞬、静まり返る。

 次の瞬間――

「えええええっ!?」

 使用人たちから一斉に声が上がった。

「公爵様がミヤを!?」

「舞踏会に!?」

「なぜ!?」

 私も聞きたい。

「公爵様、ミヤは最近、頭をぶつけてから少し様子がおかしく……」

「以前から少し変わっていたような……」

「急に食器と会話するようになりましたし……」

「この前なんて、花瓶に挨拶していましたよ」

「違います! 花瓶が話しかけてきたんです!」

 思わず反論する。

 だが、誰も信じてくれない。

 そしてアルベルト様まで黙り込んでしまった。

 私は不安になった。

「公爵様……?」

 アルベルト様は使用人たちを見回した。

「君たちは、ミヤが頭を打っておかしくなったと思っているのか?」

「はい……」

 全員がうなずいた。

「なるほど」

 アルベルト様の表情が、見る見るうちに険しくなっていく。

「では、私がそんな状態の彼女を一人で王城へ行かせると思うのか?」

「…………」

 使用人たちが顔を見合わせる。

「それは……」

「危険、ですね」

「はい」

 アルベルト様はきっぱり言った。

「だから私が連れていく」

「……なるほど!」

 なぜか全員が納得した。

「公爵様はお優しい!」

「ミヤの身を案じているのですね!」

「確かに最近のミヤは危なっかしいですから!」

「公爵様が責任を持って面倒を見てくださるのなら安心です!」

「違う! 私は――」

 私が説明しようとした、その瞬間。

『やったああああ!』

 食器棚から歓声が響いた。

『ミヤが舞踏会に行くぞ!』

『公爵様と一緒だ!』

『これは大事件よ!』

『新しいドレスだ!』

『靴も必要だぞ!』

 食器たちが大喜びしている。

 さらに厨房から皿たちの声まで聞こえてくる。

『舞踏会!』

『楽しみだな!』

『公爵様、やるじゃないか!』

「だから違うってば……」

 私は頭を抱えた。

 どうしてこうなった。

 私はただのメイドだったはずなのに。

 転生して。

 記憶が混ざって。

 壺にぶつかって。

 食器の声が聞こえるようになって。

 今度は公爵様と舞踏会。

 しかも、周囲からは完全に、

『頭を打って少しおかしくなったメイドを、公爵様が心配して舞踏会に連れていく』

という話になっている。

「ミヤ」

「はい……」

「王城では私から離れるな」

「……はい」

 アルベルト様が真剣な顔で言う。

「君を守る必要がある」

 その言葉に、使用人たちがざわめいた。

「まあ……」

「公爵様……」

「これは……」

『きゃああああ!』

 食器たちまで大騒ぎだ。

『守るって言った!』

『絶対いい感じじゃない!』

『これは恋だわ!』

「恋じゃありません!」

 私は思わず叫んだ。

 アルベルト様が不思議そうに私を見る。

「……誰に言っている?」

「食器です……」

「そうか」

 アルベルト様は真顔でうなずいた。

「では、王城でも食器には気をつけるように」

「公爵様まで!」

 私はやるせない気持ちで天井を見上げた。

 すると、棚の上の花瓶がぽつりと言った。

『ミヤ、諦めなさい』

「……あなたまで?」

『舞踏会、楽しみね』

「私は全然楽しみじゃありません!」

 屋敷中の食器たちは、私とは正反対に大喜びしていた。

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