第29話 衝撃の事実――老執事が守っていたもの
――カチン。
真っ暗になった公爵家。
老執事の手の中で、小さな鍵だけがかすかに光っていた。
「……私は、五百年前から続く秘密を守ってきたのです」
公爵様が低い声で尋ねる。
「五百年前から?」
「正確には――」
老執事は目を伏せた。
「五百年前の秘密を、代々受け継いできた家系でございます」
私は息を呑んだ。
「じゃあ、あなた自身が五百年前から生きているわけじゃ……」
「もちろん違います」
老執事は苦笑する。
「私の先祖が、五百年前の出来事を記録し、それを代々伝えてきたのです」
公爵様が一歩近づく。
「なぜ隠していた?」
「奥様に、そう頼まれたからです」
「母上が……?」
「はい」
老執事は鍵を握りしめる。
「奥様は亡くなる直前、私にこう伝えました」
――『アルベルトには、何も知らせないで』
公爵様の顔が固まった。
「なぜ……」
「それは――」
老執事が答えようとした瞬間。
『ミヤ!!』
ポケットの中のスプーンが叫んだ。
「どうしたの?」
『あの鍵!』
私は老執事の手を見る。
『あれはただの鍵じゃない!』
「え?」
『記憶を封印するための鍵よ!』
公爵様が驚く。
「記憶を……封印?」
老執事が静かに頷いた。
「その通りでございます」
そして――
鍵を銀色の小箱に差し込んだ。
カチッ。
箱が開く。
中に入っていたのは、一枚の古い手紙。
公爵様が手に取る。
「……母上の字だ」
震える手で読み始める。
『アルベルトへ』
公爵様の目が揺れる。
『もしこの手紙をあなたが読む日が来たなら、私はもうあなたのそばにはいないのでしょう。』
「……」
部屋が静まり返る。
『あなたには、幼い頃の記憶が抜け落ちています。』
公爵様が顔を上げた。
「……!」
私は息を呑む。
やっぱり――。
公爵様の幼少期の記憶が曖昧だったのは、偶然ではなかった。
『けれど、それはあなたの病気でも、記憶力の問題でもありません。』
次の一文。
『私が、あなたの記憶を封じたのです。』
「母上が……私の記憶を?」
公爵様の声が震える。
老執事が目を閉じた。
「はい」
手紙には続きがあった。
『あなたには、物に残された記憶を見る力がありました。』
「……!」
私と同じ。
『そして、あなたの双子の兄弟にも同じ力がありました。』
公爵様が凍りつく。
「……兄弟?」
王子も驚く。
「やはり双子だったのか」
私は手紙を見つめる。
そして、最後の一文。
『ですが、あなたたち二人を一緒にしてはいけない理由があります。』
その下には――
『二人の力が重なると、過去の記憶だけではなく――未来まで見えてしまう。』
「未来……?」
私が呟いた瞬間。
老執事が静かに答えた。
「それこそが、五百年前から続く秘密でございます」
公爵様が手紙を握る。
「では、私の兄弟は……」
「生きている可能性があります」
老執事の言葉に、全員が振り返った。
「……何?」
公爵様が聞き返す。
「五百年前の双子と、現在の公爵様は――」
老執事はゆっくり顔を上げる。
「同じ力を持つ血筋として、代々生まれてきたのです。」
私は驚いた。
「じゃあ、五百年前の双子と公爵様は……」
「直接の同一人物ではありません」
老執事は首を振る。
「ですが、その力を受け継いだ子孫です」
これなら、時間の矛盾はない。
五百年前の公爵夫人も。
現在の公爵様のお母様も。
同じ人物ではない。
けれど、同じ血筋につながっている。
だから似ていた。
だから記憶がつながっていた。
そして――。
私は自分の手を見る。
「じゃあ……私も、その血筋?」
老執事が答える。
「いいえ」
「え?」
老執事は私を見つめる。
「ミヤ様は――」
その瞬間。
窓ガラスが、カタカタと震えた。
スプーンが叫ぶ。
『来る!』
「誰が!?」
庭から――
コン。
コン。
コン。
誰かが窓を叩いた。
公爵様が振り返る。
そこには誰もいない。
ただ、窓に白い花びらが一枚張り付いていた。
そして花びらには、小さな文字が浮かび上がっていた。
『ミヤは、この世界の人間ではない』
「……!」
私の心臓が大きく跳ねる。
老執事が青ざめる。
「しまった……」
「何が?」
「まだ、知られてはいけないことだったのに……」
公爵様が老執事を見る。
「すべて話せ」
老執事は観念したように目を閉じた。
「……はい」
そして――
「ミヤ様は、転生したのではありません」
「……え?」
「呼ばれたのです。」
部屋に衝撃が走る。
公爵様が私を見る。
王子も。
王女も。
誰も言葉を発せない。
そして老執事は、最後にとんでもない事実を告げた。
「五百年前の双子が残した力を継ぐ者を――」
「この世界へ呼ぶために、長い年月をかけて準備されていたのです」
私は呆然と立ち尽くした。
その時、王女のお腹が――
ぐぅぅぅ……。
「…………」
全員が王女を見る。
「ち、違いますわ!」
王女は真っ赤になった。
「これは緊張しているだけです!」
私は思わず吹き出した。
「王女様……」
「ミヤ!」
「事件の核心なのに……」
「だからこそ!」
王女は胸を張った。
「ドーナツが必要なのですわ!」
公爵様が初めて声を上げて笑った。
しかし、その笑いが消えた瞬間――
老執事の背後に、黒い影が現れた。
「……!」
黒衣の男。
その手には――
ミヤの幼い頃の写真が握られていた。
「ようやく、ここまで来たか」
男が笑う。
「ならば次は――」
写真を破り捨てる。
「ミヤがこの世界へ呼ばれた本当の理由を教えてやろう」




