第28話 公爵家に裏切り者!? 犯人はまさかの……
「公爵家の中に、黒衣の男の協力者がいる」
スプーンの言葉が、地下礼拝堂に響いた。
全員が黙り込む。
「今も、ミヤのすぐ近くにいる……」
王子が周囲を見回す。
「ならば、ここにいる者の中にも?」
「待ってください」
私は慌てて手を上げた。
「スプーンさん、“すぐ近く”って、具体的には誰なんですか?」
『それが……』
スプーンが困ったように震える。
『顔が見えなかったの』
「えぇ!?」
王女がずっこける。
「それでは犯人探しが進みませんわ!」
『ごめんなさい……』
「スプーンさんを責めないでください!」
私はスプーンをそっと撫でる。
すると――
『でも、匂いなら覚えている』
「匂い?」
『古い紙と、薬草。それから……』
スプーンが震える。
『ドーナツの匂い』
「ドーナツ!?」
王女が食いついた。
「その人物、ドーナツを食べたのですか!?」
「そこじゃありません!」
「重要ですわ!」
王子が頭を抱えた。
「妹よ……」
公爵様が冷静に言った。
「屋敷に戻る」
「え?」
「協力者を探す」
公爵様の目が鋭くなる。
「ただし、誰にも気づかれないようにする」
私は頷いた。
「分かりました」
「ミヤ」
「はい?」
「屋敷では、今まで通りに振る舞え」
「普通に?」
「ああ」
「……私、普通に振る舞うの苦手なんですけど」
「知っている」
「ひどい!」
王女が笑い出す。
「ミヤ、あなた面白い方ですわね」
「王女様まで……」
しかし、その時。
公爵様が私に小声で言った。
「一番信用できるのは――」
「?」
「誰も疑っていない人間だ」
公爵家。
私たちは何事もなかったように屋敷へ戻った。
「お帰りなさいませ!」
使用人たちが出迎える。
料理人。
庭師。
侍女。
執事。
みんな普段と変わらない。
私は一人ずつ顔を見る。
「……誰なんだろう」
すると――
『ミヤ』
公爵家の壺が囁いた。
「はい?」
『焦らないで』
「でも……」
『物は嘘をつかない』
「……そうですね」
私は屋敷の中を歩く。
すると台所から声がした。
『ミヤ様!』
フライパンだった。
「どうしたの?」
『昨日、夜中に誰かが台所に入ってきたぞ!』
「誰?」
『顔は見えなかった』
「また!?」
『でも、何かを探していた』
「何を?」
『小さな銀色の箱だ』
私は公爵様を見る。
「銀色の箱?」
公爵様の表情が変わった。
「……それは、母の遺品かもしれない」
「!」
すぐに公爵様の私室へ向かう。
ところが――
「ない」
「何がですか?」
「母の形見の箱だ」
公爵様が机の引き出しを開ける。
「ここに入れていたはずだ」
「盗まれた?」
「いや……」
公爵様は首を振る。
「鍵は私しか持っていない」
その時。
コン。
コン。
扉が叩かれた。
「公爵様」
執事の声。
「入れ」
扉が開く。
そこに立っていたのは――
長年、公爵家に仕えている老執事だった。
「どうしました?」
私が尋ねる。
老執事は微笑んだ。
「少々、お伝えしたいことがございます」
すると。
私のポケットのスプーンが震えた。
『……この人』
「え?」
『薬草の匂いがする』
私は息を呑む。
老執事が私を見る。
そして――
一瞬だけ。
笑顔が消えた。
「ミヤ様」
「はい?」
「そのスプーン……」
「え?」
「なぜ、それをお持ちなのです?」
私はスプーンを見る。
老執事は続けた。
「それは昔、奥様が使っていた物です」
「……!」
公爵様が振り返る。
「知っているのか?」
「もちろんでございます」
老執事は深々と頭を下げた。
「私は奥様に長年仕えておりましたから」
私はじっと彼を見る。
「では、質問してもいいですか?」
「何でしょう」
「公爵様のお母様が亡くなる直前、何があったんですか?」
老執事の表情が固まった。
「……」
「教えてください」
長い沈黙。
やがて老執事が口を開いた。
「奥様は――」
その瞬間。
屋敷の奥から、
ガシャーン!!
大きな音が響いた。
「何!?」
全員が振り返る。
使用人が駆け込んでくる。
「公爵様! 大変です!」
「どうした?」
「地下倉庫で――」
使用人は青ざめている。
「古い棺が見つかりました!」
「……棺?」
私は息を呑む。
老執事の顔から血の気が引いた。
そして、私のスプーンが震えた。
『ミヤ……』
「はい」
『あの棺――』
スプーンの声が小さくなる。
『公爵様のお母様の記憶が入っている』
公爵様が立ち上がる。
「地下へ行く」
しかし、老執事は――
「お待ちください!」
珍しく声を荒らげた。
公爵様が振り返る。
「なぜ止める?」
老執事は答えない。
ただ、拳を強く握っていた。
私は気づいた。
その手には――
銀色の小さな箱の鍵が握られていた。
「……執事さん」
私が呟く。
「その鍵……どこから?」
老執事が顔を上げる。
そして初めて――
穏やかな老人の顔ではなく、
何かを隠している人間の顔を見せた。
「……申し訳ございません」
老執事が呟く。
「私は、五百年前から続く秘密を――」
その瞬間、屋敷の明かりがすべて消えた。
真っ暗闇の中。
老執事の声だけが響いた。
「守ってきたのです」




