第27話 核心に迫る――なのに王女はドーナツが食べたい!
地下礼拝堂の奥。
新しく現れた扉には、はっきりと文字が刻まれていた。
『ミヤの最初の人生』
私は扉を見つめる。
「……ここを開ければ、全部分かる」
五百年前の双子。
黒衣の男。
私が物の声を聞ける理由。
そして――なぜ私はこの世界に転生したのか。
すべての謎が、もう少しでつながる。
公爵様が剣を収めた。
「行こう」
「はい」
王子も頷く。
「ここまで来た以上、真実を確かめる」
王女も――
「もちろんですわ!」
力強く頷いた。
「さすが王女様」
私が感心すると、王女は真剣な顔で言った。
「ところで、ミヤ」
「はい?」
「……ドーナツは?」
「…………」
全員が沈黙した。
「え?」
王女が首を傾げる。
「以前、お兄様が大絶賛していたでしょう?」
「はい……」
「あの丸くて、ふわふわで、甘いものですわ」
「ドーナツですね」
「それです!」
王女の目が輝く。
「私、まだ食べておりませんの!」
王子が頭を抱えた。
「今、その話をするのか?」
「大切な話ですわ!」
「今から重大な秘密を調べるんだぞ」
「だからこそです!」
「なぜ!?」
王女は堂々と言い切った。
「腹が減っては、真実も探せません!」
「……」
公爵様まで黙ってしまった。
私は思わず笑ってしまう。
「分かりました。事件が終わったら作ります」
「本当ですの!?」
「はい」
「約束ですわよ!」
「はいはい」
その瞬間――
『ドーナツ!?』
壺が叫んだ。
『私も食べたい!』
「壺は食べられません!」
『昔は食べられたわよ!』
「いつの話ですか!」
緊張感が一気に吹き飛んだ。
しかし。
王女が突然、真顔になった。
「……でも」
「?」
「ドーナツを食べる前に、事件は解決しなければなりませんわ」
王女は扉を見る。
「ミヤ。あなたの過去を知ることが、今一番大切なのでしょう?」
「はい」
「なら、私も最後まで付き合います」
私は少し驚いた。
「王女様……」
「勘違いしないでくださいませ」
王女はぷいっと顔を背ける。
「あなたが心配だからではありません」
「……」
「兄が心配だからです!」
王子が振り返る。
「私が?」
「お兄様は昔から無茶ばかりしますもの!」
「……」
公爵様が小さく笑った。
「仲の良い兄妹だな」
「どこがですの!」
「どこがだ!」
二人の声が重なった。
私はまた笑った。
そして――
扉に手を置く。
「開きます」
ギィィ……。
扉がゆっくり開いた。
中には何もなかった。
ただ一つ。
大きな円形の鏡が置かれている。
鏡の表面が水面のように揺れる。
そして――
日本の街並みが映った。
「……私の世界」
懐かしい。
でも、どこか違和感がある。
映像の中にいる私は、今の私より幼い。
そして隣には――
「あの老人……」
前に見た人物だった。
老人が幼い私に何かを渡している。
それは――
小さな銀色のスプーン。
「え?」
私は思わず前へ出る。
鏡の中の幼い私が、そのスプーンを握る。
すると――
『こんにちは』
「……!」
聞こえた。
スプーンの声。
幼い私にも聞こえていた。
『私の声、聞こえる?』
幼い私は笑っている。
『うん!』
私は息を呑んだ。
「……私」
公爵様が静かに言う。
「子供の頃から、物の声を聞いていたのか」
「はい……」
鏡の中の老人が幼い私に言う。
『いつか君は、別の世界へ行く』
『どうして?』
『君にしかできないことがあるからだ』
そして老人は、幼い私の頭に手を置く。
『でも、その時まで忘れていてもいい』
映像が暗くなる。
「待って!」
私は鏡に手を伸ばした。
すると――
別の映像が浮かんだ。
異世界。
現在の公爵家。
幼いアルベルト。
そして、白い花。
さらに――
私がこの世界に転生する直前の光景。
老人が誰かと話している。
『もう時間がない』
『本当に、この子を送るの?』
『そうするしかない』
「……誰と話してるの?」
映像が近づく。
相手の顔が見えそうになった――
その瞬間。
「ミヤ!」
公爵様が叫んだ。
鏡の中から黒い手が伸びてきた。
「危ない!」
公爵様が私を引き寄せる。
王子が剣を振る。
王女も杖を構える。
「ミヤには触れさせませんわ!」
黒い手が消える。
鏡も静かになる。
「……あと少しだったのに」
私は悔しそうに呟いた。
すると王女が肩を叩く。
「大丈夫ですわ」
「王女様?」
「真実は逃げません」
そして、王女はニッコリ笑う。
「それに――」
「?」
「事件が終わったら、ドーナツですもの!」
「……そこですか!?」
王子がため息をつく。
「妹よ……」
公爵様まで笑っている。
けれど、その時。
私の手の中のスプーンが小さく震えた。
『ミヤ』
「何?」
『さっき鏡に映っていた人……』
「うん」
『あの人、私たちがよく知っている人よ』
「……誰?」
スプーンは答えた。
『公爵家の中にいる人』
私は凍りついた。
王女の表情からも笑顔が消える。
公爵様がゆっくり剣に手をかけた。
「……つまり」
王子が低い声で言う。
「黒衣の男の協力者が、公爵家の中にいるということか?」
スプーンが震える。
『そう』
そして――
『その人は、今もミヤのすぐ近くにいる』
ドーナツの話から一転。
核心はついに――
公爵家内部の裏切り者へと迫っていた。




