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第26話 扉の向こうにいた「もう一人の私」


 地下礼拝堂の床に現れた巨大な扉。

 コン……。

 コン……。

 内側から、誰かが叩いている。

「誰かいる……」

 私は思わず一歩下がった。

 公爵様が私の前に立つ。

「下がっていろ、ミヤ」

「でも……」

「危険だ」

 王子も剣を抜く。

「この扉、王城の記録には存在しないぞ」

 王女はというと――

「わ、私は別に怖くありませんわ!」

 そう言いながら、しっかり私の袖を掴んでいる。

「王女様……」

「念のためです!」

 その時。

 公爵家の壺が震えた。

『ミヤ……』

「はい?」

『この扉……知っている』

「え?」

『五百年前、一度だけ見たことがある』

 王城の壺も続ける。

『私も覚えているわ』

「じゃあ、何があるの?」

 二つの壺が同時に答えた。

『『記憶の部屋』』

 私は息を呑んだ。

 公爵様が扉に手を触れる。

 すると――

 ゴゴゴゴゴ……。

 巨大な扉がゆっくり開いた。

 中は真っ暗。

 しかし奥に、小さな灯りが一つだけ見える。

「行くしかないな」

 公爵様が進む。

 私も続く。

 王子、王女も続いた。

 しばらく歩くと――

 そこには巨大な円形の部屋があった。

 壁一面に、無数の古い家具。

 椅子。

 机。

 食器。

 花瓶。

 剣。

 宝箱。

 そして――

 大量の鏡。

「……すごい」

 私は思わず立ち止まった。

 すると鏡の一枚が突然、こちらを向いた。

「え?」

 鏡に映っているのは私。

 でも――

 鏡の中の私は、今の私とは違う服を着ていた。

 日本にいた頃の服。

「……私?」

 鏡の中の私は笑っている。

 そして口を動かした。

『やっと来たね』

「……!」

 私は鏡に近づく。

「あなた、誰?」

 鏡の中の私は答えた。

『私は――』

 ニコッ。

『あなたが忘れた記憶』

「忘れた……?」

 公爵様が私の肩に手を置く。

「ミヤ、無理するな」

 鏡の中の私は、公爵様を見る。

『この人が、今のあなたを守ってくれているんだね』

「……!」

 公爵様が驚く。

「私を知っているのか?」

『知らない』

「では、なぜ……」

『未来のあなたが知っているから』

 部屋の空気が変わった。

 王子が眉をひそめる。

「どういう意味だ?」

 鏡の中の私が答える。

『ミヤは一度、この世界に来ている』

「……え?」

 私は固まった。

「私が……?」

『正確には――』

 鏡の中の私は首を振る。

『あなたの魂が、一度ここに触れている』

「そんな記憶、ない」

『だから消されたの』

「誰に?」

 鏡の中の私は黙った。

 そして、ゆっくり黒衣の男を指差す。

 いつの間にか部屋の奥に立っていた。

「……!」

 黒衣の男が笑う。

「そこまで思い出したか」

 公爵様が剣を抜く。

「お前がミヤの記憶を消したのか!」

「全部ではない」

 男は答えた。

「必要な部分だけだ」

 私は男を睨む。

「どうして?」

「君を守るためでもある」

「信じられるわけない!」

 すると男は静かに言った。

「五百年前――」

 男が壁の鏡を見る。

「この世界では、物に残された記憶を読み取る者がいた」

「それが双子?」

「そう」

 男が頷く。

「そして、その力は代々受け継がれた」

 私は自分の胸に手を当てる。

「じゃあ、私も……」

「君はその最後の継承者だ」

「でも私は日本人だった!」

「そうだ」

 男は答えた。

「だからこそ、君は選ばれた」

「何に?」

 男は指を一本立てる。

「世界を救う役目に」

「……!」

 王女が目を輝かせる。

「まあ! 勇者みたいですわ!」

「王女様、今そこ喜ぶところじゃないです!」

「だって格好いいではありませんか!」

 緊張感が一瞬で消えた。

 公爵様がため息をつく。

「……本当に君は変わらないな」

「お兄様、何か?」

「何でもない」

 その時。

 部屋の奥から――

 カタ……。

 一つの古い食器が動いた。

『ミヤ……』

「え?」

 それは小さな皿だった。

『私も知っている』

「何を?」

『あなたがこの世界に来た日のこと』

 私は息を呑んだ。

「話して!」

『あなたは――』

 皿が震える。

『五百年前の双子が残した記憶を持って、この世界に来た』

「……!」

『でも、その記憶を狙う者がいた』

 皿が黒衣の男を見る。

『だから彼は、あなたの記憶を封じた』

「じゃあ……」

 私は男を見る。

「あなたは敵なの?」

 男は答えなかった。

 代わりに、初めて苦しそうな顔をした。

「……私は、君を守れなかった」

「え?」

「五百年前も」

 男の声が震える。

「そして今回も」

 突然、部屋の奥から大きな音が響いた。

 ドン!!

「何!?」

 壁の鏡が一斉に割れ始める。

 公爵様が私を抱えるようにして下がる。

「全員、下がれ!」

 鏡の中から黒い影が次々と這い出してくる。

 王子が剣を構える。

「何だ、こいつらは!」

 王女も杖を構える。

「私だって戦えますわ!」

 公爵様が叫ぶ。

「ミヤ、壺を!」

「はい!」

 私は二つの壺を抱える。

 すると――

『『ミヤ!』』

 二つの壺が同時に叫んだ。

『『私たちをぶつけて!』』

「ええ!?」

 壺同士を!?

 でも――

「分かりました!」

 私は二つの壺をそっと近づけた。

 カチン。

 その瞬間――

 部屋いっぱいに光が広がった。

 五百年前の記憶。

 公爵家の記憶。

 王城の記憶。

 そして――

 私が日本にいた頃の記憶。

 すべてが一つにつながっていく。

 最後に見えたのは――

 日本の街角。

 大きな壺。

 そして、その前に立つ幼い私。

 隣には、あの老人。

 老人が笑って言った。

『また会おうね、ミヤ』

 ――そこで記憶が途切れた。

 私は呆然と立ち尽くす。

「……私、あの老人に会ったことがある」

 公爵様が私を見る。

「思い出したのか?」

「はい」

 私は頷いた。

「でも……」

 私は黒衣の男を見る。

「まだ一つだけ、分からないことがあります」

「何だ?」

「どうして私は――」

 自分の胸に手を当てる。

「この世界に転生する前から、この世界のことを知っていたんですか?」

 黒衣の男は答えない。

 ただ、静かに目を閉じた。

 そして――

「次の記憶を見れば、すべて分かる」

 部屋の中央に、新しい扉が現れた。

 扉には大きく――

『ミヤの最初の人生』

と刻まれていた。

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