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第25話 王女、まさかの乱入! 事件より兄が気になる!?


 地下礼拝堂へ向かうため、私たちは王城の廊下を急いでいた。

 公爵様。

 王子様。

 私。

 そして――二つの壺。

 ……なぜ壺まで運ばれているのかは、聞かないでほしい。

『置いていかないで!』

『私も行くわよ!』

 二つの壺が馬車の中で大騒ぎしていたのだ。

「静かにしてください!」

『だって五百年ぶりに姉妹で一緒なのよ!』

「姉妹って……壺ですよね?」

『壺にも心はあるの!』

 そんなやり取りをしていると――

「お待ちなさい!!」

 廊下の向こうから、ものすごい勢いで誰かが走ってきた。

「……?」

 王子が振り返る。

「まずい」

「どうしました?」

「妹だ」

「え?」

 次の瞬間。

 バンッ!!

 大きな音を立てて扉が開いた。

「お兄様!」

 現れたのは――

 以前、私を見て「兄の本命ですって!?」と大騒ぎした、あのお姫様。

「……また来た」

 王子が頭を抱える。

「またとは何ですの!」

 王女はツンと顎を上げる。

「私を置いて、面白そうなことをするなんて許しませんわ!」

「これは遊びじゃない」

「分かっています!」

 王女は私を見る。

「ミヤ!」

「はい」

「あなたも行くのでしょう?」

「はい……」

「なら、私も行きます」

 王子が即座に言う。

「駄目だ」

「なぜですの!?」

「危険だからだ」

「お兄様こそ、いつも危険な場所に行っているではありませんか!」

「私は王子だ」

「私は王女です!」

「そういう問題ではない!」

「そういう問題ですわ!」

 兄妹の言い合いが始まった。

 私は公爵様を見る。

「……いつもこんな感じですか?」

「もっと酷い時もある」

「なるほど……」

 すると王女が突然、私の腕を掴んだ。

「ミヤ!」

「はい?」

「あなた、私の兄のこと……」

「え?」

 王女がじっと私を見る。

「……いえ、今は事件が先ですわ!」

「え?」

「恋愛の話は事件が解決してからです!」

「王女様!?」

 公爵様が少し眉をひそめた。

「何の話だ?」

「何でもありません!」

 王女は真っ赤になってそっぽを向いた。

 ……この人、本当に手強い。

 やがて私たちは地下礼拝堂へ到着した。

 扉を開ける。

 中は静まり返っていた。

「誰もいない……?」

 王子が周囲を見回す。

 公爵様が剣を構える。

「油断するな」

 私は二つの壺を見る。

「何か聞こえますか?」

『……』

『……』

「どうしたんです?」

 壺たちが黙っている。

 やがて公爵家の壺が小さな声で言った。

『誰かいる』

「どこ?」

『棺の後ろ』

 全員が振り向いた。

 すると――

「ひっ!」

 王女が私の後ろに隠れた。

「王女様、私より後ろに隠れないでください!」

「だって怖いんですもの!」

「さっきまで勇ましかったのに!」

「それとこれとは別ですわ!」

 棺の後ろから――

 コツ。

 コツ。

 足音。

 公爵様が前へ出る。

「出てこい」

 沈黙。

 そして――

「……来ると思っていた」

 黒衣の男が姿を現した。

「エドガー……!」

 公爵様が剣を向ける。

 男は笑った。

「その名で呼ばれるのは、もう慣れたよ」

「本物のエドガーではないな」

「もちろん」

 男は私を見る。

「ミヤ」

「……何?」

「君はもう、かなり思い出したようだね」

「何も思い出してない!」

「嘘だ」

 男が一歩近づく。

「君の中には、五百年前の記憶がある」

「ありません!」

「ならば――」

 男が指を鳴らした。

 地下礼拝堂の壁いっぱいに、映像が浮かび上がった。

 五百年前。

 二人の少年。

 そして、若い公爵夫人。

 さらに――

 幼い頃の公爵様。

「……!」

 公爵様が息を呑んだ。

 映像の中の母君が、幼いアルベルトを抱いている。

『この子だけは、何も知らなくていい』

 公爵様の表情が変わる。

「母上……」

 私は驚いた。

「公爵様の記憶……?」

 黒衣の男が笑う。

「そうだ」

「あなたが作った記憶?」

「違う」

 男は首を振った。

「これは本物だ」

 公爵様が男を睨む。

「なぜ母の記憶を持っている?」

「私は物から記憶を集めている」

「……」

「君の母君が使っていた物も、当然探した」

 私は拳を握る。

「それなら、なぜ公爵様の幼い頃の記憶が消えているの?」

 男は答えなかった。

 代わりに――

 王女が前へ出た。

「ちょっと!」

「……?」

「さっきから兄の記憶ばかり見せていますけれど!」

 男が王女を見る。

「何だ?」

「ミヤを怖がらせないでください!」

「王女様……」

 王女は胸を張る。

「この方は私の大切な――」

「王女」

 王子が止める。

「何ですの?」

「今は事件中だ」

「分かっています!」

 王女は男を睨む。

「だから言っているのです!」

 そして――

 王女が懐から何かを取り出した。

「これをご覧なさい!」

「……?」

 それは古い指輪だった。

 公爵様が目を見開く。

「それは……」

「ええ」

 王女が笑う。

「王家の宝物庫から見つけました」

 黒衣の男の表情が初めて変わった。

「……それをどこで?」

「あなた、これを知っていますの?」

 王女がニヤリと笑う。

「だったら話は早いですわ」

 王子が呆れる。

「妹……お前、勝手に宝物庫を?」

「今はそこを追及する場合ではありません!」

 王女が指輪を掲げる。

「これには――」

 王女が続ける。

「五百年前の公爵夫人が残した記録が隠されています」

「……!」

 黒衣の男が一歩後退した。

 私は思わず叫ぶ。

「王女様、すごい!」

「当然ですわ!」

 王女は得意げに胸を張る。

 ところが――

 公爵家の壺が叫んだ。

『違うわ!』

「え?」

『その指輪は――』

 壺が震える。

『五百年前の公爵夫人が持っていた指輪じゃない!』

 全員が固まった。

「じゃあ、これは何?」

 王女が指輪を見る。

 その瞬間。

 指輪から――

 カチッ。

 小さな音がした。

 そして内部から、一枚の極小の紙が飛び出した。

 私はそれを拾う。

 そこには――

『二人のアルベルトを分けた本当の理由を知りたければ、ミヤを信じよ』

「……!」

 全員の視線が私に集まる。

 王女が目を輝かせる。

「まあ!」

 王子も驚いている。

 公爵様は――

 私をまっすぐ見つめた。

 黒衣の男だけが、静かに笑った。

「……やはり」

「何が?」

「五百年前の計画は、まだ終わっていなかった」

 その瞬間――

 地下礼拝堂の床が大きく揺れた。

 ゴゴゴゴゴ……!

「きゃあ!」

 王女が私にしがみつく。

「王女様!」

「だって揺れてますわ!」

 床の中央に亀裂が走る。

 そして、その下から――

 巨大な古い扉が現れた。

 黒衣の男が呟く。

「ついに開いたか……」

 公爵様が剣を構える。

「何がある?」

 男は私を見る。

「ミヤ」

「……」

「その扉の向こうにあるのは――」

 男が笑う。

「君が異世界に転生することになった、本当の理由だ」

 私は息を呑んだ。

 王女も、王子も、公爵様も動けない。

 そして扉の向こうから――

 コン。

 コン。

 コン。

 誰かが、こちら側へ向かって叩いていた。

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