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第24話 王城の壺が隠していた最後の記憶


 王城へ向かう馬車の中。

 私はずっと、ポケットの中の銀色の髪飾りを握っていた。

「……自分の記憶を疑いなさい、か」

 老人の言葉が頭から離れない。

 向かいに座る公爵様が私を見る。

「気になるのか?」

「はい」

「なら、無理に思い出そうとするな」

「え?」

「記憶というものは、無理に掘り返すと余計に混乱する」

 公爵様は少しだけ笑った。

「君は頭をぶつけてから、十分すぎるほど混乱しているからな」

「……それは否定できません」

 その時――。

『ミヤ!』

 ポケットの中から声がした。

「わっ!」

 箱だった。

『王城の壺が危ないわ!』

「急ぎましょう!」

 公爵様が馬車の窓を開ける。

「御者、速度を上げろ!」

 王城。

 地下保管庫。

 扉を開けた瞬間――

 ガシャーン!

「!」

 陶器が割れる音がした。

「王城の壺!」

 私は駆け込む。

 そこには、床に転がった王城の壺。

 幸い、壊れてはいない。

『ミヤ!』

「大丈夫!?」

『私は大丈夫。でも……』

 壺が震える。

『あの男が、私の記憶を盗もうとしたの』

 私は周囲を見る。

「黒衣の男は?」

『もういないわ』

 王子が保管庫を調べる。

「逃げたか……」

 その時、公爵様が床に落ちているものを拾った。

「これは……」

 古い紙。

 そこには五百年前の文字で――

『双子の記憶は、二つの壺に分けて保存する』

 と書かれていた。

「やっぱり……」

 私は二つの壺を見る。

「二つの壺が対になっている理由って、これだったんですね」

『そうよ』

 王城の壺が答える。

『私には王城側の記憶』

『私には公爵家側の記憶』

 公爵家の壺が続ける。

『二つを合わせれば、五百年前の真実が完成する』

「じゃあ、今こそ――」

 私は二つの壺に触れた。

 その瞬間。

 ――パァァァッ!

 眩しい光が地下保管庫を包んだ。

「ミヤ!」

「大丈夫です!」

 光の中に、一つの映像が浮かび上がる。

 五百年前。

 王城。

 幼い少年が一人、椅子に座っている。

 その少年は――

「……双子の片方?」

 王子が呟く。

 そこへ、一人の女性がやって来る。

 女性は少年を抱きしめる。

『あなたには、ここで生きてもらいます』

『兄さんは?』

『公爵家にいるわ』

『会いたい』

『いつか、きっと』

 しかし女性の顔には、悲しみが浮かんでいた。

 そこへ――

 五百年前のエドガーが現れる。

『奥様』

『エドガー……』

『もう時間がありません』

『分かっています』

 エドガーが一枚の書類を差し出す。

 そこには――

『双子を分離する理由』

と書かれていた。

 私は息を呑む。

 ついに理由が分かる。

 女性が口を開いた。

『この子たちには、特殊な魔力がある』

『二人が近くにいると、互いの魔力が共鳴する』

『そして共鳴が強くなれば――』

 映像が乱れる。

「待って!」

 私が叫ぶ。

 しかし、映像が消えそうになる。

『ミヤ!』

 二つの壺が叫んだ。

『まだ一つ、隠された記憶がある!』

「どこ!?」

 王城の壺が答える。

『私の底よ!』

「底!?」

 私は壺を覗き込む。

 すると、底の奥に小さな紙が貼り付けられていた。

 私はそっと取り出す。

 そこには――

『双子の力は、魔法ではない』

「……え?」

 その下には、さらに一行。

『物に残された記憶を読み取る力である』

「……!」

 私は息を呑んだ。

 公爵様も驚いている。

「物の記憶……」

 私は自分の手を見る。

「じゃあ……五百年前の双子も、私と同じ力を?」

『そう』

 壺が答えた。

『だから二人を離したの』

 私は呟く。

「私と同じ……」

 その時、ポケットの髪飾りが震えた。

『違う』

 老人の声。

「……!」

 私は髪飾りを取り出す。

『君は、双子の力を受け継いだだけじゃない』

「じゃあ私は何なの?」

 返事はない。

 代わりに、髪飾りに残された記憶が勝手に再生された。

 そこには――

 現代の日本。

 幼い私。

 そして、あの老人。

『君はいずれ、異世界へ行く』

「……!」

『その時、君は物の声を聞く』

 私は息を呑む。

 自分が日本にいた頃の記憶。

 それは本当に、自分の記憶なのか?

 しかし次の瞬間。

 老人の姿が変わった。

 白髪の老人ではない。

 若い男。

 そして、その顔は――

「……黒衣の男!」

 公爵様が剣を抜く。

「どういうことだ?」

 私は震える。

「分かりません……」

 黒衣の男が映像の中で笑う。

『君は、五百年前から始まった計画の最後の一人だ』

「私が……?」

『そう』

 映像が消える。

 地下保管庫に静寂が戻る。

 王子が低い声で言った。

「つまり、黒衣の男はミヤを最初から知っていた?」

 私は答えられない。

 その時。

 公爵様が私の前に立った。

「ミヤ」

「……はい」

「過去がどうであろうと、今の君が君であることに変わりはない」

「公爵様……」

「だから、一人で抱えるな」

 私は少しだけ安心した。

 だが――。

 王城の壺が突然叫んだ。

『待って!』

「どうしたの?」

『まだ記憶が一つ残っている!』

「え?」

『五百年前の双子が――』

 壺が震える。

『最後に会った場所よ!』

 王子が息を呑む。

「どこだ?」

 壺が答えた。

『地下礼拝堂』

「……!」

 公爵様を見る。

 そこは、私たちが黒衣の男と遭遇した場所。

 そして、五百年前の封印が残されている場所。

 私は気づいた。

「黒衣の男は、まだ終わってない」

 公爵様が頷く。

「ああ」

「次に向かう場所は――」

 私は拳を握る。

「地下礼拝堂です」

 そして私たちは再び、五百年前の秘密が眠る場所へ向かう。

 しかし誰も知らなかった。

 そこで待っているのは黒衣の男だけではない。

 **五百年前に二人の双子が最後に残した「もう一つの記憶」**が、今まさに目を覚まそうとしていた。

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