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第19話 五百年の封印――動き出した墓

 地下礼拝堂。

 黒衣の人物が消えたあとも、誰も動けなかった。

 私は公爵様の隣に立っている。

「……今の人、本当にエドガーさんじゃなかったんですね」

 公爵様が頷く。

「ああ」

「でも、エドガーさんの記憶を持っている」

「そうらしい」

 その時。

 足元の箱が震えた。

『ミヤ……』

「どうしたの?」

『まだ終わってない』

「え?」

 箱が地下礼拝堂の奥を指すように、カタカタと動いた。

『あそこ』

 そこには古い墓石があった。

 しかし――

 ゴゴゴゴ……。

「……動いてる」

 墓石がゆっくり横へ動いている。

「全員、下がれ!」

 公爵様が剣を構えた。

 王子も王女も後ろへ下がる。

 私は公爵様の背中越しに墓を見る。

 そして――

 コン。

 コン。

 コン。

 中から音がした。

「誰かいる?」

 私が呟く。

『違う』

 箱が答えた。

『人間じゃない』

「じゃあ何?」

『……記憶よ』

「記憶?」

 ゴゴゴゴ……。

 墓石が完全に開いた。

 そこには棺が一つ。

 しかし、蓋は閉じられている。

 公爵様が近づく。

「この紋章……」

 棺には、古い公爵家の紋章が刻まれていた。

 王子が尋ねる。

「五百年前のものか?」

「そうだ」

 公爵様が答える。

 私は棺に近づいた。

『触らないで!』

「え?」

 箱が叫ぶ。

『それに触れたら、あなたは五百年前の記憶に引き込まれる!』

「……」

 私は慌てて手を引っ込めた。

「それ、先に言ってくださいよ!」

『今言ったでしょう!』

「遅いです!」

 王女が小声で王子に言う。

「この二人、緊張感がありませんわね」

「いつものことだ」

 公爵様が棺の周囲を調べている。

「鍵穴がある」

 王子が近づく。

「鍵は?」

「ない」

 すると――

 カラン。

 何かが床に落ちた。

「……?」

 私は拾い上げる。

 小さな古い鍵だった。

『それよ』

 箱が震える。

「この鍵?」

『五百年前に、この棺を閉じた鍵』

「じゃあ、どうして今ここに?」

 誰も答えられない。

 私は鍵を見る。

 すると――

『ミヤ』

「……!」

 鍵がしゃべった。

『長かった』

「あなたも喋れるんですか!?」

『君なら聞こえると思った』

「何を?」

『私は、ここを開けるために作られた』

 公爵様が聞く。

「中には何がある?」

 鍵はしばらく黙った。

『人ではない』

「では?」

『記憶を保存した魔石』

 王子が驚く。

「記憶?」

『500年前、ある人物が未来へ残した記憶だ』

 公爵様の顔が険しくなる。

「誰の記憶だ?」

 鍵は答えた。

『それは――』

 突然、地下礼拝堂の灯りが消えた。

「!」

 真っ暗になる。

 そして耳元で――

『開けてはいけない』

 誰かの声がした。

「誰!?」

 公爵様が剣を振る。

 しかし、そこには誰もいない。

 灯りが戻る。

 すると――

 棺の上に、一枚の紙が置かれていた。

 私は恐る恐る近づく。

 紙には、古い文字でこう書かれていた。

『この記憶を見た者へ』

 そして、その下に――

『二人のアルベルトを信じるな』

 私は凍りついた。

「……二人のアルベルト?」

 公爵様も黙り込む。

 王子が尋ねる。

「五百年前、公爵家には本当に二人のアルベルトがいたのか?」

 公爵様は古い記録を思い出す。

「……記録では、一人だ」

「でも、この手紙には二人とある」

 私は紙を見つめる。

「だったら……」

 私はゆっくり顔を上げた。

「歴史そのものが書き換えられている?」

 箱が震えた。

『その可能性が高いわ』

「じゃあ、五百年前に何があったの?」

『それを知るために――』

 箱が棺を見る。

『開けるしかない』

 公爵様はしばらく考えた。

 そして鍵を私に渡す。

「ミヤ」

「はい」

「君にしか聞こえない声がある」

「……」

「だから、君に任せる」

 私は鍵を握った。

 カチャ。

 棺の鍵が開く。

 ゆっくり蓋が動く。

 中にあったのは――

 一つの黒い魔石。

 そして、その隣に小さな銀色の髪飾り。

 私は髪飾りに触れた。

 ――ドクン!

「……!」

 頭の中に映像が流れ込んできた。

 五百年前。

 若い公爵夫人。

 幼い少年。

 そして――

 もう一人の少年。

「二人……」

 確かにいた。

 しかも二人とも、同じ顔。

 双子だ。

 公爵夫人が二人を抱きしめる。

『あなたたちは、決して離れてはいけない』

 しかし――

 扉が開く。

 そこに立っていたのは、王城の紋章をつけた人物。

『奥様』

『……来たのですね』

『時間がありません』

 公爵夫人は涙を拭う。

『この子をお願いします』

 そして一人の少年を、その人物へ託した。

「……!」

 映像が途切れる。

「何で……?」

 私は息を呑む。

 その瞬間、魔石から声がした。

『一人は公爵家へ』

『もう一人は王城へ』

「!」

 公爵様が驚く。

「王城へ?」

 魔石はさらに続けた。

『二人を離したのは――』

 そこで声が途切れる。

「何で止まるの!?」

 私は魔石を両手で持つ。

 すると魔石が突然、黒く染まった。

 そして――

『続きを知りたければ、王城の壺を探せ』

「……!」

 箱が叫んだ。

『そういうことだったのね……』

 王子が立ち上がる。

「王城の壺?」

「公爵家の壺と対になっている、500年前の壺です」

 私は頷く。

「二つの壺を合わせれば、五百年前の真実が分かる」

 公爵様も頷いた。

「ならば王城へ行こう」

 だが、その瞬間。

 地下礼拝堂の奥から――

 カラン。

 何かが落ちた。

 全員が振り向く。

 そこに落ちていたのは――

 黒衣の人物が使っていた黒い石。

 私はそれを見つめる。

「……まだ、あの人は近くにいる」

 石が小さく震えた。

『……見つけた』

「え?」

 石が笑った。

『君を』

 私は凍りついた。

 そして地下礼拝堂の奥から――

 黒衣の人物の声が響いた。

「ミヤ」

 公爵様が私を庇う。

「私の記憶を壊した君を――」

 声が消える。

「私は絶対に忘れない」

 地下礼拝堂に、再び静寂が戻った。

 しかし私たちはまだ知らなかった。

 黒衣の人物が本当に欲しがっているのは、五百年前の秘密ではない。

 その秘密を解くことができる――

 ミヤ自身だった。

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