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第十八話 五百年前の死者? 犯人の正体を暴く「記憶の迷路」

 黒衣の人物が、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。

 左足を引きずる音が、地下礼拝堂に響いた。

 コツ……。

 コツ……。

 公爵様は剣を構えたまま動かない。

「……お前は誰だ」

 黒衣の人物は笑った。

「私の顔を見ても分からないか?」

「知らない」

「そうか。ならば――」

 男が顔を上げる。

「お前の母親なら知っている」

「!」

 公爵様の目が鋭くなる。

「母上を知っているなら、名前を言え!」

「……エドガー」

 公爵様が固まった。

「エドガー……?」

 王子が尋ねる。

「誰だ?」

 公爵様は答えられない。

 すると――

『私が知ってるわ!』

 箱が叫んだ。

「箱さん!」

『この人は、アルベルト様のお母様の護衛だった!』

「護衛?」

 男が笑う。

「よく覚えていたな」

 王子が剣を向ける。

「ならば、なぜ五百年前の人間が今も生きている?」

「それを知りたいか?」

 男は私を見る。

「ミヤ。君なら分かるだろう?」

「……え?」

「物に触れれば、過去が見える」

 男が一歩近づく。

「ならば、私自身ではなく――」

 男が床を指差す。

「私が使った物に聞けばいい」

「……!」

 男は突然、床へ黒い小さな石を投げた。

 カラン。

『ひっ!』

 石が叫ぶ。

「この石……」

 私は拾おうとする。

 しかし、公爵様が止めた。

「触るな」

「どうして?」

「罠かもしれない」

 その瞬間。

 男が笑った。

「さすがだな」

 そして――

 パッ!

 黒い煙が広がった。

「きゃっ!」

「ミヤ!」

 公爵様が私の手を掴む。

 だが、煙の中で視界が真っ白になった。

 気がつくと――

 私は一人で立っていた。

「……ここ、どこ?」

 周囲には何もない。

 真っ白な空間。

 その奥に、一枚の古い扉がある。

『ミヤ』

「……箱さん?」

 いつの間にか、私の手の中に箱があった。

『ここは、記憶の中よ』

「記憶?」

『あの男が見せているの』

「どうして?」

『あなたが真実を知るのを怖がっているから』

「じゃあ、ここから出るには?」

『この記憶の中から、嘘を見つけて』

「嘘……?」

 扉が開く。

 そこには五百年前の公爵家が映し出されていた。

 若い公爵夫人。

 幼いアルベルト。

 そして――護衛のエドガー。

「……あの男」

 エドガーは夫人を守っている。

 ところが場面が変わった。

 エドガーが誰かと話している。

『公爵夫人を裏切れ』

『断る』

『ならばアルベルトを殺す』

「……!」

 私は映像に近づく。

「これは本当の記憶?」

『違う』

「え?」

 箱が答える。

『ここに一つだけ、おかしいところがある』

 私は映像を観察する。

 エドガー。

 公爵夫人。

 幼いアルベルト。

 そして――

「……窓!」

 私は気づいた。

「外が真っ暗なのに、部屋の中に朝の光が入ってる」

『そう』

「つまり、この記憶は作られている!」

 その瞬間。

 映像が崩れた。

「やった!」

 箱が笑う。

『正解よ!』

 真っ白な空間に、男の声が響く。

「……やはり君は面白い」

「エドガー!」

「私が見せた記憶を、簡単に見破るとはな」

「あなたは何者なの?」

 沈黙。

「私は――」

 声が近づく。

「五百年前に死んだ人間ではない」

「え?」

「私は五百年前の人間に『なりすましている』だけだ」

「……!」

 私の頭が混乱する。

「じゃあ、本物のエドガーは?」

「死んだ」

「いつ?」

「五百年前だ」

 男の声が低くなる。

「そして私は、エドガーの記憶を受け継いだ」

「どうやって?」

「物だ」

 私は息を呑む。

「物?」

「人間は忘れる。だが、物は覚えている」

 男は続ける。

「私は長い年月をかけて、古い物に残された記憶を集めてきた」

「……まさか」

「そう」

 男の声が笑う。

「君と同じ能力だ」

 私は震える。

 私と同じ。

 物の声を聞き、記憶を見る者。

「でも……どうして私を狙うの?」

「君が私の記憶を壊せるからだ」

「え?」

「君は知らないうちに、私が何百年もかけて集めた記憶を読み取っている」

「……」

「だから――」

 男の声が消える。

「君を仲間にするか、消すしかない」

 私は一歩後ずさる。

「絶対に嫌!」

 その瞬間――

 白い空間に亀裂が入った。

「ミヤ!」

 公爵様の声。

「公爵様!」

 亀裂の向こうから、公爵様が手を伸ばしている。

「私の手を取れ!」

「はい!」

 私は手を伸ばす。

 しかし、その瞬間――

 黒衣の男が現れた。

「待て」

 男が私の腕を掴もうとする。

 すると――

「ミヤに触るな!」

 公爵様が強引に私を引き寄せた。

 私は公爵様の胸元に倒れ込む。

「大丈夫か?」

「はい……!」

 王子と王女も駆けつける。

「戻ってきたか!」

「何だったんですの、今のは!」

 私は息を整えながら答える。

「犯人は……」

 全員が私を見る。

「物の記憶を集めている人です」

 公爵様が険しい顔をする。

「そして――」

 私は黒衣の男が消えた場所を見る。

「私と同じ力を持っています」

 その時。

 足元の箱が震えながら叫んだ。

『まだよ!』

「え?」

『犯人は逃げていない!』

 私たち全員が振り返る。

 地下礼拝堂の奥。

 そこにあった古い墓石が――

 ゆっくりと動いていた。

『あの中にいる!』

 公爵様が剣を構える。

「……墓の中に?」

 王女がごくりと息を呑む。

 そして墓石の奥から――

 コン、コン、コン。

 誰かが内側から叩いた。

「……!」

 私は凍りついた。

 箱が小さな声で言う。

『あそこには……』

『五百年前から、開けてはいけないものが眠っている』

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