第十七話 五百年前の続きを知る箱――そしてツンツン姫が大活躍!
――真っ暗。
地下礼拝堂の灯りが、すべて消えた。
「ミヤ!」
公爵様の声がする。
「ここにいます!」
「動くな!」
「はい!」
すると王女の声が響いた。
「お兄様! 公爵様! 私のところにいますわ!」
「王女、そこから動くな!」
「分かっています!」
暗闇の中。
私は手探りで、さっきの箱を探した。
「箱さん!」
『ここよ!』
手に触れた。
その瞬間――
ドクン!
強烈な映像が頭の中へ流れ込んできた。
五百年前。
王城。
幼いアルベルトが、一人の女性の手を握っている。
「母上……」
女性は優しく微笑んでいた。
『アルベルト。あなたは、何があっても人を疑いすぎてはいけません』
「でも、怖いよ」
『大丈夫』
女性は小さな箱を取り出した。
『これをいつか、あなたが本当に信じられる人に渡しなさい』
場面が変わる。
夜。
女性が誰かと話している。
「なぜ、こんなことを……」
『あなたの息子を守るためだ』
「そんなことをしたら、アルベルトが――」
『彼には真実を知られてはいけない』
そして――
黒い服の人物が現れた。
その人物の顔は見えない。
だが、胸元には――
公爵家の紋章。
「……!」
映像が途切れた。
「ミヤ!」
現実に戻る。
公爵様が私の肩を支えていた。
「大丈夫か?」
「はい……」
私は箱を握りしめる。
「公爵様のお母様は、誰かに脅されていたみたいです」
「……母上が?」
「そして、この箱を『本当に信じられる人』に渡すように言われていました」
公爵様は箱を見る。
「では、なぜ今まで……」
『それは私が隠れていたからよ』
箱が答える。
「え?」
『私はずっと、この礼拝堂に隠されていた』
王子が尋ねる。
「誰が隠した?」
箱は答えなかった。
『……それは言えない』
「なぜ?」
『怖いの』
箱の声が震える。
『あの人に見つかったら、私の記憶を消される』
私は息を呑んだ。
「やっぱり……」
物の記憶を消せる人間がいる。
そして、その人物は五百年前から存在している。
その時――
「全員、伏せて!」
王女の叫び。
次の瞬間、
――バンッ!
壁から何かが飛んできた。
「危ない!」
王女が私を引っ張る。
私は床に倒れ込んだ。
「王女殿下!」
「ぼーっとしているからですわ!」
王女はツンと顔を上げる。
「あなた、私が助けなかったら危なかったんですのよ!」
「ありがとうございます……!」
「べ、別にあなたを助けたかったわけではありません!」
王女の耳が少し赤い。
『素直じゃないわね』
王女の髪飾りが呟く。
「あなた、今何か言いました?」
『何も』
「絶対何か言ったでしょう!」
こんな状況なのに、なぜか少しだけ緊張がほぐれた。
しかし――
暗闇の奥から声がする。
「感動的な再会だな」
あの声。
昨日、鏡の中から聞こえた声。
公爵様が剣を構える。
「姿を見せろ」
「まだ早い」
声が笑う。
「アルベルト。お前は母親と同じだ」
公爵様の表情が変わった。
「……母上を知っているのか」
「もちろん」
「ならば答えろ!」
公爵様が一歩踏み出す。
「母上を殺したのは誰だ!」
しばらく沈黙。
そして――
「お前自身だ」
「……!」
私は息を呑んだ。
「嘘……」
公爵様の顔から血の気が引く。
「どういう意味だ!」
「お前が生きていたから、彼女は死んだ」
「……!」
公爵様が剣を握る手を震わせる。
私は思わず公爵様の腕を掴んだ。
「公爵様!」
「……ミヤ」
「その人の言葉を信じないでください」
私は箱を見る。
「箱さん、何か知ってるよね?」
『……』
「教えて」
『……分かった』
箱が小さく震える。
『アルベルト様のお母様は――』
その瞬間。
ガシャーン!
箱が突然床へ落ちた。
「箱さん!」
『……逃げて!』
箱が叫ぶ。
『犯人が来る!』
礼拝堂の奥から、足音。
コツ。
コツ。
コツ。
ゆっくりと近づいてくる。
公爵様が私の前に立つ。
王子が剣を抜く。
王女も構える。
「今度こそ、姿を見せてもらいますわ!」
すると暗闇の中から――
一人の人物が姿を現した。
黒い服。
左足を引きずっている。
そして――
その顔を見た瞬間。
公爵様が絶句した。
「……そんな……」
私は公爵様を見る。
「知っている人ですか?」
公爵様は答えられない。
なぜなら、その人物は――
五百年前の肖像画に描かれていた人物と、まったく同じ顔をしていたから。
そして箱が、震える声で呟いた。
『この人は……』
『五百年前に死んだはずの――』
そこで箱の声が途切れた。
黒衣の人物が笑う。
「さあ、ミヤ」
その視線が私に向く。
「君が次に知るのは――私がなぜ今も生きているのか、だ」
私は息を呑んだ。
五百年前の事件は、まだ終わっていなかった。




