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第十六話 地下へ消えた使用人――そして、犯人を知る「掃除道具」

舞踏会場がざわめく。

 消えたのは、公爵家の使用人の一人。

 しかも――王城の地下へ向かったらしい。

「公爵様!」

「分かっている」

 公爵様はすぐに動こうとした。

 だが、私は腕を掴んだ。

「待ってください!」

「ミヤ?」

「地下へ行く前に、聞きたいことがあります」

 私は会場を見回す。

「犯人を追いかけるんじゃありません」

 そしてニヤリ。

「犯人が通った物を、全部聞けばいいんです!」

 王子が笑った。

「なるほど。ミヤらしい」

「物の証言なら、嘘はつけませんから」

『え?』

 近くのグラスが小声で言う。

『私、たまに嘘つくけど』

「今それ言わないで!」

 私はまず、舞踏会場の床へ触れた。

「あなた、さっき誰が通った?」

『黒い靴の人』

「どっちへ?」

『王女様のところへ行ったあと、東の廊下』

 次に絨毯。

『待って! 黒い靴だけじゃないわ』

「何が?」

『もう一人いた』

「もう一人?」

『公爵家の使用人服だった』

 公爵様の表情が変わる。

「その使用人の顔は?」

『見えなかった』

「でも、靴なら覚えている?」

『ええ』

 絨毯が答える。

『右足の踵が少しすり減っていた』

「……!」

 私は昨日の足跡を思い出す。

 左足を引きずっていた男。

 そして今日の使用人。

「まさか……」

 公爵様が低く言う。

「同一人物かもしれない」

 王子が兵士に命じようとした。

 しかし私は首を振った。

「まだです」

「まだ?」

「証拠が足りません」

 私は廊下へ走る。

 途中に置かれた掃除道具。

 モップ。

 バケツ。

 箒。

「あなたたち!」

『はい!』

「さっき、この廊下を誰か通った?」

 モップが即答する。

『通ったわ』

「何人?」

『二人』

「二人目は?」

『公爵家の使用人服だった』

 私は息を呑む。

「どこへ?」

 モップが答えようとした。

 その瞬間――

『……地下よ』

 箒が小さく呟いた。

「やっぱり……」

 私は箒を見つめる。

「地下のどこ?」

『古い礼拝堂』

「礼拝堂?」

 公爵様が驚く。

「王城の地下に、そんな場所があるのか?」

 箒が答える。

『五百年前に閉鎖された場所よ』

 王子が険しい顔になる。

「そこに何がある?」

 箒はしばらく黙った。

『……墓』

「墓?」

『アルベルト様の母君の――』

 公爵様が固まった。

「……母上の?」

 空気が一気に変わる。

 公爵様は何も言わず、地下へ向かおうとする。

「待ってください!」

 私は追いかけた。

「私も行きます」

「駄目だ」

「どうしてですか?」

「危険だからだ」

「でも、私の能力が必要ですよね?」

「……」

 公爵様は言葉を失う。

 王子が横から口を挟んだ。

「公爵、ミヤを一人で行かせるより、我々と一緒の方が安全だ」

「……分かった」

 公爵様が私を見る。

「絶対に私から離れるな」

「はい!」

 すると王女が腕を組む。

「私も行きますわ」

「王女殿下は残ってください」

「嫌です」

「危険です」

「私だけ安全な場所で待っていろと?」

 王女はツンと顔を上げる。

「犯人は私を狙ったのです。私にも知る権利があります」

「……」

 公爵様が王子を見る。

「妹君を止めてくれ」

「無理だ」

「即答ですか?」

「一度決めたら聞かないからな」

「お兄様!」

「事実だろう」

 王女がふんっと鼻を鳴らす。

「では行きますわ!」

 こうして――

 公爵様。

 王子。

 王女。

 そして私。

 四人で地下礼拝堂へ向かうことになった。

 長い階段を下りる。

 地下は冷たく、静かだった。

 やがて古い扉が現れる。

 その扉には――

 公爵家の紋章。

 公爵様が扉に触れた。

 すると扉が震えた。

『……アルベルト』

「!」

 扉が話した。

『久しぶりね』

「……あなたは?」

『私は、アルベルトのお母様が最後に触れた扉よ』

 ミヤの表情が変わる。

「公爵様の母君はここで何をしていたの?」

扉が、小さな声でミヤに語りかけてくる。

「………」

『あなたを守るために――』と扉が、言っているわ。

 その瞬間。

 ガシャーン!

 礼拝堂の奥から大きな音が響いた。

「誰!?」

 王女が叫ぶ。

 私たちは一斉に振り返る。

 そこには――

 公爵家の使用人が立っていた。

「お前……!」

 公爵様が剣を抜く。

 使用人は怯えたように両手を上げた。

「違います!」

「では、なぜここにいる?」

「私は……」

 使用人は震える声で言った。

「犯人に呼び出されたんです」

「何?」

「ここで、ある物を渡せと言われました」

「何を?」

 使用人が懐から小さな箱を取り出す。

 私はその箱を見た瞬間、息を呑んだ。

 ――ドクン。

 記憶が流れ込む。

 幼いアルベルト。

 彼を抱きしめる女性。

 そして、その女性が箱を渡している。

『この箱を、いつかアルベルトへ』

 私は震えながら言った。

「公爵様……」

「何だ?」

「これ、お母様からのものです」

 公爵様が箱を受け取る。

 だが――

 箱は突然叫んだ。

『開けないで!』

「えっ?」

 全員が凍りつく。

 箱が震えている。

『中には――』

 そこで箱の声が途切れた。

 そして、地下礼拝堂の奥から。

 パチ……パチ……

 誰かが拍手している。

「……!」

 暗闇の中から声が響く。

「やっとここまで来たか」

 私は息を呑んだ。

 その声は――

 昨日、鏡の中から聞こえた声と同じだった。

「ミヤ」

 公爵様が私の前に立つ。

 暗闇の人物が笑う。

「さあ――五百年前の続きを始めよう」

 そして箱が、震えながら小さく呟いた。

『……この人を知ってる』

 私は箱を見る。

「誰なの?」

『公爵様の――』

 箱が答えようとした、その瞬間。

 礼拝堂の灯りがすべて消えた。

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