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第十三話 犯人の「逃げ道」を証言する物たち

 料理長が犯人ではない。

 では、誰なのか。

 私は机の上に並べた証拠品を見つめていた。

 黒い手袋。

 謎の金属片。

 そして、犯人が残した足跡。

「よし……!」

 私は拳を握る。

「物証人のみなさん、捜査開始です!」

『おおー!』

 ……なぜか食器たちが盛り上がった。

「まず、この金属片から!」

 私は拾った金属片に触れる。

 ――ドクン。

 映像が流れ込んできた。

 暗い廊下。

 誰かが走っている。

 そして、その人物が扉に手をかける。

「そこだ!」

 私は映像の中の扉を指差した。

「この扉、どこにあるの?」

『私だ』

 王城の古い扉が答える。

「え?」

『私は地下通路につながっている』

 公爵様が眉をひそめる。

「地下通路……」

 王子がすぐに反応した。

「昨日の隠し通路か」

『そうだ』

 扉が続ける。

『だが、犯人は私から出ていない』

「え?」

『途中で別の道へ入った』

「どこ?」

 扉は少し考える。

『……鏡の部屋だ』

「鏡?」

 王城には、古い鏡だけを集めた部屋があるらしい。

 私たちは急いで向かった。

 鏡の部屋。

 そこには何十枚もの古い鏡が並んでいた。

「すごい……」

 私は思わず見とれる。

 すると――

『ミヤ』

 鏡の一枚が囁いた。

「あなたも話せるの?」

『もちろん』

「昨日、犯人を見た?」

『見たわ』

 公爵様と王子が同時に鏡へ近づく。

「誰だった?」

 鏡は沈黙する。

 そして――

『顔は見ていない』

「え?」

『犯人は私を見なかった』

「じゃあ、何を見たの?」

『あなたたちよ』

 鏡が私たちを映す。

『犯人は、鏡に映ったあなたたちを見ていた』

 王子が考え込む。

「つまり、犯人は直接こちらを見ずに、鏡を使って監視していた?」

「そういうことですね」

 私は鏡の縁を触る。

 ――ドクン。

 映像。

 黒い服。

 手袋。

 そして――

 犯人が鏡に向かって何かを呟いている。

『公爵は……ミヤを守る』

「……!」

 公爵様の顔が険しくなる。

 犯人は私の存在を知っていた。

 そして、公爵様が私を守ろうとすることまで予測していた。

「私を狙ってる?」

「その可能性が高い」

 公爵様が即答した。

「……私のせいで?」

「違う」

 公爵様は私を見る。

「君が悪いわけではない」

 その声は静かだった。

「君の能力を恐れているのだろう」

 その時――

『違うわ』

 鏡が言った。

「え?」

『犯人が恐れているのは、ミヤの能力だけじゃない』

「じゃあ何を?」

『ミヤが、真実を知ること』

 部屋が静まり返った。

 そのときだった。

 鏡の一枚が突然、ひび割れた。

「危ない!」

 公爵様が私を引き寄せる。

 パリン!

 鏡が砕け散った。

 床に落ちた破片の一つが、震えるように呟く。

『逃げた……』

「誰が?」

『犯人が……』

 私はすぐに破片を拾った。

「どこへ行ったの?」

『王城の外……』

「どっち?」

『北門……』

 王子が叫ぶ。

「兵士を北門へ!」

 しかし私は首を振った。

「待って!」

「どうした?」

「それ、罠です」

「なぜ?」

 私は鏡の破片を見つめる。

「この鏡が見たのは、犯人の現在じゃない」

 王子が目を見開く。

「……過去?」

「はい」

 つまり犯人は――

 すでに私たちが追うことを予測して、偽の痕跡を残していた。

 公爵様が低く笑う。

「随分と用意周到だな」

 私は周囲を見回した。

 そして、あることに気づいた。

「……でも」

「?」

「一つだけ、おかしいです」

 私は鏡の部屋の床を指差す。

「ここには、犯人の足跡が一つもない」

「!」

「なのに、どうして鏡だけが犯人を見たんでしょう?」

 全員が黙る。

 すると――

 部屋の隅に置かれた小さな花瓶が、震える声で言った。

『……だって』

「うん?」

『犯人は、この部屋に入ってないもの』

「……!」

 公爵様が花瓶を見る。

「では、どうやって鏡に映った?」

 花瓶が答える。

『鏡を持ってきたのよ』

「鏡を……?」

 私は部屋を見回す。

 何十枚もの鏡。

 その中に――

 一枚だけ。

 他とは明らかに違う鏡があった。

 古びているのに、表面だけは新品のように綺麗。

「これ……」

 私が触れた瞬間。

 ――ドクン。

 映像が流れ込んだ。

 犯人が鏡を運んでいる。

 そして鏡の裏側に――

 公爵家の紋章。

「……この鏡、公爵家から持ち出されたものです」

 公爵様の顔が変わった。

「そんなはずはない」

「でも、鏡がそう言っています」

 鏡が震える。

『私は……公爵家にいた』

「いつ?」

『ずっと昔から』

 そして鏡は、最後にとんでもないことを告げた。

『私は、公爵様のお母様を知っている』

「……!」

 公爵様が息を呑む。

 鏡が静かに続ける。

『そして……』

『あの日、アルベルト様を救ったのも――』

 そこで鏡の声が途切れた。

「どうしたの!?」

『……ごめんなさい』

「え?」

『私の記憶が……消されている』

 私は愕然とした。

 物の記憶まで――

 誰かが意図的に消している。

 公爵様が鏡を見つめる。

「誰がそんなことを……」

 私は答えられなかった。

 だが、鏡の裏に刻まれた小さな文字を見つけた。

 そこには一言。

 『記憶を消せる者は、物を知る者』

 私は息を呑む。

「公爵様……」

「何だ?」

「犯人は――」

 私は鏡を見つめた。

「私と同じように、物と会話できるのかもしれません」

 王子の表情が凍った。

 そして公爵様は、初めて明確な警戒を見せた。

「……もう一人、いるということか」

 その瞬間。

 鏡の奥から、誰かの声がした。

『――やっと気づいたか』

 私は振り返った。

 誰もいない。

 しかし鏡には――

 私たち三人とは別の、四人目の姿が映っていた。

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