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第十四話 ツンツン姫、乗り込んできました! でも今はそれどころじゃありません!

王城の鏡の部屋。

 鏡に映った、四人目の人影。

『――やっと気づいたか』

「誰!?」

 私は思わず公爵様の後ろに隠れた。

 王子も剣に手をかける。

 しかし――

 パリンッ!

 鏡が突然、普通の鏡に戻った。

「消えた……?」

『記憶を消せる者は、物を知る者』

 さっきの言葉だけが、頭に残っている。

 その時だった。

 ――バンッ!!

 大きな音とともに扉が開いた。

「お兄様!!」

「……」

 王子が頭を抱える。

「来たか……」

 入ってきたのは、十六歳くらいの少女。

 豪華なドレス。

 金色の髪。

 真っすぐな姿勢。

 そして、見るからに気の強そうな瞳。

「第二王女殿下……?」

 王子の妹だった。

 彼女はツンと顎を上げる。

「そうですわ!」

 そして私をじっと見る。

「あなたがミヤね?」

「はい……」

「ふーん……」

 上から下まで見られる。

「普通のメイドに見えますけど」

「普通のメイドです」

「……」

 王女の眉がピクッと動く。

「お兄様!」

「何だ?」

「私は聞きましたわ!」

「何を?」

「この娘が、お兄様の『本命』だと!」

「…………」

「…………」

「…………え?」

 私の頭が真っ白になる。

「本命!?」

 王子がものすごい勢いで否定した。

「違う!」

「では、なぜ毎日のようにこの娘のところへ行くのです!」

「ドーナツが――」

「ドーナツ!?」

 王女が絶句する。

「お兄様……まさか、ドーナツに恋を……?」

「違う!」

 私は思わず吹き出した。

 公爵様は無言。

 だが、口元がほんの少し緩んでいる。

「公爵様、笑いました?」

「笑っていない」

「絶対笑いましたよね?」

「気のせいだ」

 王女は私を睨む。

「とにかく!」

 ビシッと私を指差す。

「お兄様の本命候補なら、私が認めるわけにはいきません!」

「本命候補じゃありません!」

「ならば勝負です!」

「何の!?」

「……」

 王女が考える。

「……何かしら」

「考えてなかったんですか!?」

 王子が深いため息をついた。

「今はそれどころじゃない」

 王女の顔から笑みが消える。

「……何ですの?」

 公爵様が短く説明する。

 五百年前から続く事件。

 公爵家への毒殺未遂。

 物の記憶を消す謎の人物。

 そして、鏡に映った四人目。

 王女はしばらく黙っていた。

「……なるほど」

 さっきまでのツンツンした態度が消えた。

「それなら、私も協力します」

「王女殿下が?」

「ええ」

 王女は胸を張る。

「私は王族ですもの。兄が狙われている可能性もあるのでしょう?」

「そうだ」

 王子が頷く。

 王女は私を見る。

「それと……」

「はい?」

「あなた」

「私?」

「物と話せるのでしょう?」

「はい」

 王女はじっと私を見る。

「なら、私のティアラに聞いてください」

「ティアラ?」

『……嫌よ』

「え?」

 ティアラが小声で呟く。

『あのお姫様、怒ると怖いんだもの』

 私は吹き出しそうになる。

「……何か言いました?」

「いえ!」

 王女が不審そうに私を見る。

「では、聞いてください」

 私はティアラに触れる。

「昨日、何か見た?」

『見たわ』

「誰を?」

『王女様のお部屋に、夜中に入ってきた人』

「えっ!」

 王女の顔色が変わる。

「誰ですの!?」

『顔は見えなかった』

「服装は?」

『黒い服』

 公爵様と王子が顔を見合わせる。

 また黒。

「ほかには?」

『でも――』

 ティアラが少し黙る。

『その人、王女様の髪飾りを触っていたわ』

「髪飾り?」

 王女が自分の髪に手を当てる。

 そこには、小さな赤い宝石の髪飾り。

『それから、こう言ってた』

「何て?」

『――「これで王女を動かせる」って』

「……!」

 王女の顔が険しくなる。

「私を……?」

 その瞬間。

 王女は私の手を握った。

「ミヤ」

「は、はい?」

「あなた、私と一緒に来なさい」

「え?」

「犯人を探すわよ」

「王女殿下?」

「私、こう見えても頭は悪くありませんの」

 ツンと顔を上げる。

「そして――」

 王女がニヤリと笑った。

「私を利用しようとした犯人には、たっぷり後悔してもらいますわ!」

 王子が苦笑する。

「……やる気になったな」

「当然です!」

 そして王女は私を見る。

「ただし、勘違いしないでください」

「何をですか?」

「あなたを認めたわけではありません」

「はあ……」

「お兄様の本命かどうかは、私がこの目で確かめます!」

「だから本命じゃないですって!」

 その横で、公爵様がぽつり。

「……王子の本命?」

「公爵様まで!?」

 すると、部屋中の物たちが一斉に笑い始めた。

『面白くなってきた!』

『恋愛どころじゃないのに!』

『犯人探しなのに!』

 私は頭を抱える。

「お願いだから、今は犯人探しに集中してー!」

 だが――

 王女が身につけていた赤い髪飾りだけは、誰にも聞こえないほど小さな声で呟いていた。

『……あの人、また来るわ』

「え?」

 私は振り返る。

『今夜も――』

 赤い宝石が、ほんの一瞬だけ不気味に光った。

 犯人は、王女を狙っている。

 そして次の標的は――

 今夜の王宮舞踏会だった。

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