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第十一話 地下室からの脱出と公爵様の本音

 地下保管庫の扉が閉まった。


 私は固まっていた。


 ――『ミヤを殺せ』


 さっき聞こえた、物に残された記憶の声が頭から離れない。


「ミヤ」


 公爵様が私の前に立つ。


「私の後ろにいろ」


「でも……」


「いいから」


 いつもの冷静な声。


 だけど、その手は剣を握ったまま離さない。


 王子も周囲を警戒している。


「誰かがここに侵入したのか?」


「分かりません」


 私は首を振った。


 すると――


『ミヤ!』


 棚の上の古いランプが叫んだ。


「どうしたの?」


『あそこ! 壁の右側!』


 私は指差された場所を見る。


 古い壁。


 何もないように見える。


 しかし、私が近づくと――


『押して!』


「ここ?」


 壁に手を当てた。


 カチッ。


 隠し扉が開いた。


「……!」


 王子が驚く。


「隠し通路か!」


「物たちが教えてくれました」


「君の能力は本当に便利だな」


 公爵様が私を見る。


「ミヤ、先に行くな」


「はい」


 私たちは隠し通路へ入った。


 細い通路の壁には、古い燭台が並んでいる。


『久しぶりに人間が来た』


『最後に人が通ったのは何十年前かしら』


『違うわ。もっと最近よ』


「……最近?」


 私は足を止めた。


『ええ』


 燭台が答える。


『数日前にも誰かが通った』


「誰?」


『顔は見えなかった』


 王子が険しい顔になる。


「つまり、今も誰かがこの城の秘密を調べているということか」


 そのとき。


 後ろから――


 カタン。


 何かが落ちた。


「!」


 公爵様が振り返る。


 誰もいない。


 しかし、私は聞いた。


『逃げたぞ』


 床の石が言った。


「公爵様!」


「分かっている」


 公爵様が走り出す。


 私も続こうとした。


 その瞬間、足元が崩れた。


「きゃっ!」


「ミヤ!」


 身体が傾く。


 落ちる――!


 そう思った瞬間、公爵様の腕が私を抱き止めた。


「……っ」


「大丈夫か?」


「は、はい……」


 公爵様の腕の中。


 顔が近い。


 私は急に恥ずかしくなった。


「公爵様……近いです」


「すまない」


 そう言いながらも、公爵様は私を離さなかった。


「……怪我はないな?」


「ありません」


「よかった」


 その声が、いつもより優しかった。


 王子が後ろからやってくる。


「公爵」


「何だ」


「そのまま抱えている必要はないだろう?」


「……」


 公爵様の眉が動く。


「足場が危険だからだ」


「そうか」


 王子が笑う。


「では、僕が代わろう」


「必要ない」


 即答だった。


「……そうか」


 王子は楽しそうに笑った。


『あらまあ』


 通路の燭台が小声で言う。


『これは分かりやすいわね』


「お願いだから黙って……」


 私は顔を赤くしながら言った。


 ようやく安全な場所へ出ると、公爵様は私を降ろした。


「ミヤ」


「はい?」


「昨日、君が見た私の過去のことだが」


「……はい」


「無理に調べなくていい」


「でも……」


「私の過去は、君を危険に巻き込む」


 公爵様は少し目を伏せた。


「私は、もう誰かを失うのは嫌なんだ」


「……」


 私は胸が苦しくなった。


「公爵様」


「何だ?」


「私は、勝手に過去を覗いたりしません」


 私は笑った。


「公爵様が自分から話してくれるまで待ちます」


「……ミヤ」


 公爵様が驚いたように私を見る。


 そして――


「ありがとう」


 小さな声だった。


 その瞬間。


『ミヤ』


 私のポケットのスプーンが囁く。


『今の公爵様、すごく嬉しそうよ』


「……うん」


 私も少しだけ笑った。


 しかし――


 王子が突然、通路の先を指差した。


「二人とも、話は後だ」


「え?」


「誰かいる」


 暗闇の向こう。


 人影が一瞬だけ見えた。


「待て!」


 公爵様が追いかける。


 だが、人影は角を曲がり消えてしまった。


 残されたのは――


 一枚の黒い手袋。


 私は恐る恐る拾い上げる。


 ――ドクン。


 また記憶が流れ込んだ。


 黒い服の男。


 そして、その男が誰かに言っている。


『公爵家の娘を利用すれば、アルベルトは必ず動く』


「……公爵様」


 私は青ざめた。


「どうした?」


「この人……公爵様を狙っています」


 そして、もう一つ。


 私は手袋に残った記憶を見て、息を呑んだ。


「それだけじゃない」


「何だ?」


「犯人は……公爵様の身近にいる人を知っています」


 王子の顔から笑みが消える。


 公爵様は黙って黒い手袋を見つめた。


「……そうか」


 その目には、かつてないほどの怒りが宿っていた。


 五百年前から続く秘密。


 現在も続く毒殺未遂。


 そして、公爵様の身近に潜む何者か。


 ミヤのチート能力は、ついに巨大な陰謀の核心へ近づき始めていた。

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