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追放された悪役令嬢(♂)に転生した俺、チートを隠して辺境でスローライフするつもりが世界最適解になっていた件  作者: 南蛇井


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第98話:魔族の噂

人間の王国から遠く離れた北方。


深い森と岩山に囲まれた土地――

魔族領。


昼でも空は薄暗く、

濃い魔力が霧のように漂っている。


その中心にある石造りの城。


城の一室で、数人の魔族が集まっていた。


長い角。

赤い瞳。

鋭い牙。


人間なら震え上がる姿だが、

彼らは穏やかに会話していた。


机の上には一つの小さな魔導具。


金属の筒。


簡素な魔法陣。


一人の魔族がそれを指でつつく。


「……これか」


低い声。


別の魔族が頷いた。


「そうだ」


「人間の商人が持ち込んだ」


最初の魔族が眉をひそめる。


「人間の魔導具にしては」


持ち上げる。


軽い。


「妙だな」


別の魔族が言う。


「試してみろ」


机の横には濁った水が入った器。


魔族は魔導具を沈める。


一瞬。


水が澄んだ。


魔族たちは沈黙した。


数秒後。


一人がぽつりと言う。


「……簡単すぎる」


もう一人が頷く。


「魔力効率が異常だ」


別の魔族が腕を組む。


「人間が作ったのか?」


答えはすぐに出ない。


やがて一人が資料を広げた。


そこには商人の報告が書かれている。


「出所は」


紙を指でなぞる。


「王国の辺境」


別の魔族が首を傾げる。


「辺境?」


「そう」


「グレイウッドという場所らしい」


沈黙。


やがて誰かが笑った。


「辺境でこんな物を?」


別の魔族が言う。


「しかも量産されている」


「値段も安い」


「壊れにくい」


最初の魔族が呟く。


「……おかしい」


魔族たちは人間をよく知っている。


欲望。

競争。

権力争い。


そんな連中が、こんな便利な物を

安くばらまくはずがない。


つまり。


誰かがいる。


この技術を作った者が。


机の上の魔導具を見つめながら

魔族の一人が言った。


「辺境に」


ゆっくり。


「変な人間がいるらしい」


別の魔族が笑う。


「面白い」


赤い瞳が光る。


「少し調べるか」


窓の外には魔族領の暗い森。


そして遠く。


人間の王国の方向。


その辺境にいる男――


レオン。


彼の存在は、まだ小さな噂に過ぎない。


だがその噂は今。


人間の国を越え、


魔族の耳にも届き始めていた。

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