第92話:レオンとの出会い
ラザールは馬車を降りた。
靴が地面に触れる。
固い。
整備されている証拠だ。
普通の村道なら、雨でぬかるむ。
だがここは違う。踏み固められ、排水まで考えられている。
ラザールは軽く足で地面を踏んだ。
「……丁寧だ」
商人の目で見る。
ただの道ではない。
計算された道だ。
秘書が周囲を見回す。
「商業用の街道レベルですね」
ラザールは頷く。
「しかも安く作っている」
視線を動かす。
家。
畑。
水路。
魔法装置。
どれも高価ではない。
だが――
配置が完璧だった。
ラザールは村人の一人に声をかけた。
「すまない」
作業していた男が顔を上げる。
「ん?」
「旅の商人だ」
ラザールは軽く頭を下げた。
「この村、見事だ」
男は笑った。
「だろ?」
誇らしそうだった。
ラザールは本題に入る。
「この設備は誰が?」
村人はあっさり答えた。
「レオン」
ラザールの目が細くなる。
「レオン?」
「そう」
男は指を向けた。
「ほら」
ラザールはそちらを見る。
少し離れた場所。
畑の横。
一人の男がしゃがみこんでいた。
木箱を分解している。
服は普通。
いや、むしろ質素だ。
作業服のようなもの。
手には工具。
そして――
周囲には小さな魔法装置がいくつか置かれていた。
男は装置を開き、中を確認している。
魔力結晶を外し、何かを調整しているようだった。
ラザールは足を止めた。
秘書が小声で言う。
「……技術者でしょうか」
ラザールは首を振る。
「違う」
商人の勘。
そして長年の経験。
それが告げていた。
「あれは」
ゆっくり言う。
「設計者だ」
ラザールは男へ歩いていく。
数歩。
そして声をかけた。
「失礼」
男は顔を上げた。
年は若い。
だが目が落ち着いている。
ラザールは名乗った。
「私はラザール」
「商人だ」
男は少しだけ頷いた。
「レオン」
それだけ言った。
短い。
余計な言葉がない。
ラザールは周囲の装置を見る。
水を循環させる魔法具。
風を送る装置。
浄化装置。
どれも小型。
だが効率が異常だった。
ラザールはしゃがみ込み、装置を覗く。
内部構造を見る。
数秒。
そして。
ラザールは小さく息を吐いた。
「……なるほど」
レオンが言う。
「壊れてるだけだ」
「調整すれば動く」
ラザールは笑った。
「いや」
ゆっくり首を振る。
「壊れているのは」
装置を軽く叩く。
「この国の方だ」
レオンは無言。
ラザールは装置をもう一度見た。
そして確信する。
噂。
辺境の技術者。
王都を揺らすかもしれない男。
それが――
目の前にいる。
ラザールは静かに呟いた。
「……本物だ」
そして心の中で続けた。
王国が失ったものは。
とんでもないものだったらしい。




