第91話:ラザール到着
数日後。
王都を出た馬車は、山道を越え、森を抜け、荒れた道を進み続けていた。
普通ならば、商人が好んで来る場所ではない。
盗賊、魔物、補給不足。
利益よりも危険の方が多い土地。
それが――辺境だった。
馬車の中で、ラザールは地図を眺めていた。
「もうすぐのはずです」
御者が外から声をかける。
ラザールは地図を折った。
「辺境の村、だったな」
「はい」
秘書が答える。
「報告では小規模な集落と」
ラザールは小さく笑う。
「楽しみだ」
馬車は最後の森を抜ける。
そして――
視界が開けた。
御者が思わず声を上げる。
「……あれ?」
ラザールはカーテンを開けた。
外を見る。
そして。
「……ほう」
思わず声が漏れた。
そこにあったのは――
村ではなかった。
まず目に入ったのは道。
土の道ではない。
踏み固められ、整備された道が真っ直ぐ伸びている。
その両側には家が並んでいた。
木造だが、雑ではない。
形が揃い、配置も整っている。
計画的に作られているのが一目で分かった。
ラザールは呟く。
「……整っている」
さらに視線を動かす。
畑。
広い。
しかも、ただ広いだけではない。
畝が綺麗に揃っている。
水路が走っている。
農民たちが作業しているが、動きに無駄がない。
秘書が小さく言う。
「農業効率…高そうですね」
ラザールは頷いた。
「高い」
さらに奥を見る。
そこには――
小さな魔法装置が並んでいた。
風を送る装置。
水を引く装置。
そして照明。
どれも大きくない。
だが、配置が絶妙だった。
必要な場所に、必要なだけ。
ラザールは目を細める。
「……無駄がない」
御者が馬車をゆっくり進める。
村人たちがこちらを見る。
だが――
慌てない。
騒がない。
ただ少し興味を示す程度だ。
盗賊もいない。
荒くれ者もいない。
子供が普通に走り回っている。
秘書が困惑していた。
「治安が……良い」
ラザールは腕を組んだ。
商人の目。
都市を見る目。
それで周囲を観察する。
数分。
そして彼は静かに言った。
「おかしい」
秘書が頷く。
「はい」
ラザールは呟く。
「ここ……」
周囲を見回す。
整った街並み。
効率的な設備。
穏やかな空気。
そしてもう一度言った。
「ここ」
少し笑う。
「辺境だよな?」
秘書も苦笑するしかなかった。
「……地図では」
「間違いなく辺境です」
ラザールはもう一度周囲を見る。
そして確信した。
「なるほど」
小さく呟く。
「これは噂になる」
馬車が村の中心へ近づく。
ラザールの目が輝いた。
「いい」
「実にいい」
そして彼は言った。
「この村」
静かに笑う。
「金の匂いがする」
だが――
この村の中心にいる男は。
そんなことなど、まったく気にしていなかった。




