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追放された悪役令嬢(♂)に転生した俺、チートを隠して辺境でスローライフするつもりが世界最適解になっていた件  作者: 南蛇井


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第85話:辺境の夜

夜。


辺境の村には、ゆっくりとした時間が流れていた。


王都のような石造りの街でもなければ、

煌びやかな灯りがあるわけでもない。


木造の家々。

土の道。

小さな井戸。


そして――


家々の窓から漏れる、温かな灯り。


その一つ。


村の共同食堂では、今日も夕食が始まっていた。


木の長テーブルの上に並ぶ料理。


焼いた肉。

固めのパン。

野菜の入った素朴なスープ。


豪華でもなければ、特別でもない。


だが――


村人の一人が、肉を頬張って叫んだ。


「レオンさん!!」


「これうまい!」


口いっぱいに肉を詰め込みながら、満面の笑み。


その向かい側で、レオンは静かにパンをちぎっていた。


「普通だろ」


あっさりした返事。


村人は首を振る。


「いやいや!」


「前はこんな味じゃなかった!」


隣の女が笑う。


「そうそう」


「スープもなんか違うのよ」


鍋をかき混ぜていた料理係の老婆が鼻を鳴らす。


「材料は同じだよ」


「ただ、レオンが畑を見てくれるようになってから野菜が元気になっただけさ」


村人たちがレオンを見る。


レオンはスープを一口飲む。


「……普通だな」


また同じ感想。


村人たちは笑った。


「普通じゃねぇよ」


「前よりうまい!」


「肉も柔らかいし」


「パンも膨らみが違う」


レオンは肩をすくめる。


「気のせいだろ」


実際、彼は特別なことをしたつもりはない。


畑の魔力の流れを少し整えただけ。


井戸の水脈を安定させただけ。


結界を少し補修しただけ。


――それだけだ。


だが村人たちには違って見える。


食事をしながら、男が笑う。


「そういや今日、畑の魔物も来なかったな」


「最近ほとんど見ない」


別の男が頷く。


「結界、調子いいよな」


レオンはパンを口に入れながら言う。


「穴があったから塞いだだけだ」


「そりゃ来なくなる」


簡単に言う。


だが村人たちは顔を見合わせる。


「……穴?」


「そんなのあったのか?」


レオンは不思議そうに言った。


「普通にあったぞ」


「三か所」


村人たちが沈黙する。


しばらくして誰かが言った。


「俺ら、気づかなかったぞ」


レオンは少し考えた。


「まあ」


「普通は見えないか」


また静かな食事が始まる。


外では虫の声。


夜風が村を通り抜ける。


誰かがスープを飲んで言った。


「平和だな」


別の男が頷く。


「ほんとにな」


王都では今頃――


会議。

問題。

責任。

言い争い。


だがここにはない。


ただ、夕食があるだけ。


肉。

パン。

スープ。


村人が笑う。


「レオンさん」


「明日も畑見てくれる?」


レオンはあっさり答える。


「暇だからな」


「いいぞ」


それだけだった。


特別な使命も。


英雄の覚悟も。


世界を変える意思もない。


ただ――


普通の生活。


村の灯りが、静かに夜を照らしていた。

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