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追放された悪役令嬢(♂)に転生した俺、チートを隠して辺境でスローライフするつもりが世界最適解になっていた件  作者: 南蛇井


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第84話:農地の不作

王国南部。


王都から遠く離れたこの地域は、

王国でも有数の穀倉地帯として知られていた。


見渡す限りの畑。

黄金色の麦畑。

青々とした野菜畑。


本来なら――

そうであるはずだった。


だが今。


畑には奇妙な光景が広がっていた。


芽が出ない。


育たない。


枯れている。


農民の男が、土を掴みながら唸る。


「……おかしい」


手の中の土は乾いていない。


水も足りている。


それなのに、苗が弱々しい。


隣の農民が言う。


「うちも同じだ」


「芽は出るんだが……そこから育たねぇ」


別の男が畑を見渡しながら言う。


「病気か?」


「いや、違う」


「去年までは問題なかった」


農民たちは顔を見合わせた。


そして誰かが、ぽつりと呟く。


「……結界じゃないか?」


視線が空へ向く。


畑の上空には、薄く光る魔法の膜が広がっていた。


農業結界。


害虫の抑制。

土壌魔力の安定。

魔物の接近防止。


王国が誇る農業魔法設備の一つ。


本来ならば、作物の成長を助ける結界だった。


だが――


その光が、どこか弱々しい。


農民の老人が腕を組む。


「前から思ってたがな」


「最近、結界の光が弱い」


若い農民が驚く。


「やっぱり?」


「俺もそう思ってた」


別の男が言う。


「王都の役人には報告したぞ」


「だがな……」


肩をすくめる。


「異常なし、だとよ」


農民たちの顔に不満が広がる。


「異常なしなわけあるか」


「作物が育ってねぇんだぞ」


「去年の半分も取れねぇ」


その時。


老人がぽつりと呟いた。


「……レオン様がいなくなってからだ」


空気が止まる。


若い農民が聞き返す。


「レオン様?」


老人は頷いた。


「王都の技術官だ」


「何年か前にな、ここに来たことがある」


農民たちが顔を見合わせる。


「そんな人いたか?」


老人は畑の端を指差す。


「あそこにある結界塔」


石で作られた細い塔。


そこから淡い光が空へ伸びている。


「あれを調整してたのがレオン様だ」


若い農民が目を丸くする。


「王都の貴族が?」


「そうだ」


老人は懐かしそうに笑う。


「妙な人だったな」


「偉そうでもないし」


「泥だらけになって畑を見て回ってた」


別の農民も思い出したように言う。


「ああ……」


「なんか若い兄ちゃんだったな」


「魔法陣をいじってた」


老人は頷く。


「その年はな」


「収穫がすごかった」


誰もが思い出す。


あの年の豊作。


麦はよく育ち、野菜も大きくなった。


王国中に出荷された。


だが。


若い農民が首をかしげる。


「でもそれ、偶然じゃないのか?」


老人は少し考えた。


そして言った。


「……さあな」


「だが」


畑を見渡す。


枯れかけた苗。


元気のない葉。


「レオン様が来なくなってから」


「結界が弱くなった気がする」


沈黙。


誰も否定しない。


農民の一人が言う。


「王都に聞いてみるか」


別の男が苦笑する。


「聞いたって同じさ」


「技術者に任せろ、だろ」


皆がため息をついた。


その頃。


王都ではまだ――


この問題の深刻さを誰も理解していなかった。


物流の遅延。

魔法設備の不具合。

研究の停滞。


そして今。


農地の不作。


それらすべてに共通する名前が、

少しずつ人々の口に上り始めていた。


農民の老人が静かに呟く。


「……レオン様」


風が畑を揺らす。


弱い結界の光が、かすかに揺れていた。


そして噂は、ゆっくりと――


王都へ向かって広がっていく。

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