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追放された悪役令嬢(♂)に転生した俺、チートを隠して辺境でスローライフするつもりが世界最適解になっていた件  作者: 南蛇井


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第82話:止まった魔法技術

王都の中心部。

高い塔と白い研究棟が並ぶ場所がある。


王立魔法研究院。


王国の魔法技術の中枢。

新しい魔導装置、結界技術、農業魔法――

すべての研究がここで生まれてきた。


その研究院の一室。


長い机の上に、数十枚の設計図が広げられていた。


沈黙。


紙をめくる音だけが響く。


やがて、若い研究者が小さく呟いた。


「……おかしい」


年配の研究者が顔を上げる。


「何がだ」


「理論は……間違っていません」


設計図を指差す。


「この魔力循環理論、完璧です」


「魔力損失も計算上は最小」


「装置構造も合理的」


彼は首を傾げた。


「なのに」


「再現できない」


別の研究者がため息をつく。


「またか……」


机の上にあるのは、ひとつの設計書。


表紙には簡潔に書かれている。


魔力循環補助装置 第三改良型


設計者名。


――レオン。


研究者の一人が言う。


「試作機は何台目だ?」


「五台目です」


「結果は?」


「すべて暴走しました」


部屋の空気が重くなる。


別の研究者が図面を睨みながら言う。


「理論は分かる」


「完全に理解できる」


「魔力をここで圧縮して、ここで緩和して、ここで循環させる」


指で設計図をなぞる。


「……だが」


顔を上げた。


「この魔力制御は人間業ではない」


静まり返る室内。


若い研究者が言った。


「私もそう思います」


「数値は書いてある」


「手順もある」


「だが」


指先が設計図の一点で止まる。


「この調整値が異常なんです」


別の研究者が頷いた。


「普通の魔導士なら魔力が乱流を起こす」


「装置が耐えられない」


「だがこの数値だと――」


言葉を止める。


結論が、信じられないからだ。


「……成立してしまう」


年配の研究者が腕を組んだ。


「つまり」


「設計書通りなら動く」


「しかし」


「誰もその制御ができない」


沈黙。


机の上には、レオンの設計書が何冊も積まれている。


・農業結界補助装置

・街道維持魔術機構

・魔導物流転送装置

・結界塔安定化装置


王国の技術基盤の多くに、同じ名前が書かれていた。


――レオン。


若い研究者が言う。


「今まで……」


「これをどうやって動かしていたんですか?」


年配の研究者は答えなかった。


ただ、設計図をめくる。


古い記録が出てくる。


整備担当者欄。


そこに書かれている名前。


――レオン。


――レオン。


――レオン。


また。


レオン。


研究者の一人が小さく言った。


「……まさか」


「全部、本人が調整していたのか?」


別の研究者が首を振る。


「そんなはずはない」


「一人で王国中の装置を管理など――」


言いながら、言葉が弱くなる。


記録は否定してくれない。


むしろ逆だった。


すべての記録が同じことを示している。


年配の研究者がぽつりと呟いた。


「……我々は」


「彼をただの技術者だと思っていた」


誰も否定しない。


若い研究者が設計書を閉じる。


「この技術」


「次の改良案も書いてあります」


ページをめくる。


そこにはさらに高度な装置の設計があった。


だが。


「……無理です」


彼は静かに言った。


「この理論は理解できる」


「だが」


「実装できる者がいない」


研究者たちが黙り込む。


研究院の窓の外では、王都の塔が見える。


そこにある結界塔。


魔導輸送装置。


農業魔法設備。


すべてが今も動いている。


だが。


研究院の誰もが理解していた。


新しいものは、もう生まれない。


レオンの設計書は残っている。


理論も残っている。


だが。


それを動かせる者がいない。


若い研究者が呟いた。


「研究が……進まない」


誰も答えない。


王立魔法研究院は、王国最高の頭脳が集まる場所だ。


だが今。


彼らは初めて気づいていた。


王国の魔法技術は、長い間――


一人の人間の背中に乗って進んでいたのだと。


そして、その背中はもう。


ここにはいない。


静まり返った研究室で、年配の研究者が言った。


「……研究を一時凍結する」


誰も反対しなかった。


机の上には、レオンの設計書が残されている。


その文字は、まるで淡々と語っているようだった。


ここまでは出来る。


だが、ここから先は――


研究院はまだ知らない。


その“先”が、どれほど遠いのかを。

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