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追放された悪役令嬢(♂)に転生した俺、チートを隠して辺境でスローライフするつもりが世界最適解になっていた件  作者: 南蛇井


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第77話:静かな連帯

 朝は、いつも通りに始まった。


 鶏が鳴く。


 遠くで誰かが井戸を使う音。


 川の流れ。


 グレイウッドの朝は、静かだ。


 レオンは家の扉を開けた。


 冷たい空気が頬に触れる。


 空は薄く白み始めていた。


 村の様子を眺める。


 畑では、もう人が動いている。


 セラだ。


 剣ではなく、鍬を持っている。


 土を起こしながら、ふとこちらに気づく。


「起きたか」


「うん」


 短いやり取り。


 それだけで会話は終わる。


 レオンは井戸へ向かった。


 桶を下ろす。


 水を引き上げる。


 顔を洗う。


 冷たい水が目を覚まさせた。


 その時、背後から声がした。


「おはようございます」


 振り向く。


 リィナだった。


 両手に洗濯物の籠を抱えている。


「早いね」


「……なんとなく」


 前なら、

 「命令があるから」と言っていただろう。


 今は違う。


 理由はない。


 やりたいからやっている。


 それだけだ。


 レオンは桶を戻した。


「今日は何するの?」


 リィナは少し考える。


「畑、少し手伝って……」


 言葉を探す。


「そのあと……パン焼こうかなって」


「いいね」


 レオンはうなずいた。


 それで会話は終わる。


 リィナは川へ向かった。


 特別なことは何もない。


 いつもの朝だった。


 その頃、村の中心では

 エルナが帳簿を見ていた。


「うーん……」


 小さく唸る。


 木箱の上に広げられた紙。


 収穫量。


 貯蔵量。


 人数。


 数字は少しずつ増えている。


 それはいい。


 問題は――


「また人増えてる……」


 昨日も一人。


 その前も二人。


 噂を聞いた人間が、

 少しずつ流れてくる。


 追放者。


 流民。


 逃亡者。


 事情は様々だ。


 エルナはため息をつく。


「村長じゃないのに……」


 ぼやく。


 だが、誰も村長を名乗らない。


 だから自然と

 エルナが数字を管理している。


 その時。


 セラが近づいてきた。


「難しい顔してるな」


「人が増えてるの」


「いいことじゃないか」


「食料の計算が……」


 エルナは紙を叩く。


「適当すぎるのよ、この村!」


「そうか?」


「そうよ!」


 セラは笑った。


「でも飢えてない」


「……それはそうだけど」


 理屈が通らない。


 計画もない。


 なのに回っている。


 エルナは紙を畳んだ。


「まあ、いいわ」


「いいのか」


「どうせ誰も命令聞かないし」


 セラは肩をすくめた。


「命令する気もないだろ」


「ないわね」


 二人は同時に笑った。


 その時。


 レオンが近づいてきた。


「おはよう」


「おはよう」


 エルナが言う。


「ねえレオン」


「うん?」


「もし中央がまた来たらどうする?」


 質問は軽かった。


 深刻な空気はない。


 レオンは少し考える。


「どうもしない」


「え?」


「普通に暮らす」


 エルナは眉をひそめる。


「それだけ?」


「うん」


 レオンは畑を見た。


 リィナが土を触っている。


 セラが鍬を持つ。


 子供たちが走る。


「変える必要ある?」


 エルナはしばらく黙った。


 それから小さく笑う。


「ないわね」


 セラも言う。


「ないな」


 それで終わりだった。


 作戦会議もない。


 誓いもない。


 守る宣言もない。


 ただ、同じ場所にいる。


 同じ暮らしをしている。


 それだけだ。


 だが――


 その様子を、

 遠くから見ている者がいた。


 丘の上。


 王都から来た調査官。


 望遠鏡を覗いている。


「……理解できない」


 隣の部下が言う。


「何がですか」


「統率がない」


「はい」


「命令系統もない」


「はい」


「なのに秩序がある」


 調査官は眉をひそめた。


 村人たちはバラバラに動いている。


 しかし、衝突しない。


 争わない。


 そして、効率的だ。


「まるで……」


 言葉を探す。


 部下が先に言った。


「仲間、ですね」


 調査官は首を振った。


「違う」


「え?」


「仲間なら、リーダーがいる」


 もう一度望遠鏡を見る。


 レオンが畑に入っていく。


 セラが道具を渡す。


 リィナが笑う。


 誰も中心にいない。


 だが、繋がっている。


 調査官は静かに呟いた。


「これは……」


 少し間を置いて。


「群れだ」


 その言葉の意味を、

 彼自身も理解していなかった。


 同じ頃。


 レオンの視界に

 UIが静かに浮かんでいた。


 【観測中】


 【対象:グレイウッド】


 【社会関係解析】


 そして。


 一行が追加される。


 【関係性分類:未定義】


 さらに。


 【役割依存:確認できず】


 最後に。


 小さな警告。


 【世界モデル不一致】


 レオンはそれを見て、

 小さく息を吐いた。


「またか」


 だが、気にしない。


 鍬を持つ。


 土を起こす。


 セラが言う。


「そこ浅い」


「ほんとだ」


 リィナが笑う。


「パン焼けました」


 エルナが叫ぶ。


「休憩!」


 誰も命令していない。


 誰も誓っていない。


 それでも――


 彼らは同じ場所にいる。


 それだけで十分だった。


 そして世界はまだ、

 それを理解できていなかった。

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