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追放された悪役令嬢(♂)に転生した俺、チートを隠して辺境でスローライフするつもりが世界最適解になっていた件  作者: 南蛇井


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第75話:役割を拒否する集団

 役人は、まだ立ち尽くしていた。


 手に持った羊皮紙は、

 風に揺れている。


「……本当に、残るのか?」


 誰に向けた言葉でもない。


 ただ、信じられないという声だった。


 村人たちは作業を続けている。


 畑を耕し、

 薪を割り、

 家を直す。


 誰も騒がない。


 誰も怒らない。


 ただ、普通に生きている。


 役人は、エルナを見た。


「君は……領主の娘だろう」


「元、です」


「なら分かるはずだ。

 秩序が必要だ」


 エルナは少し考えた。


 そして、静かに答える。


「ありますよ」


「……どこに?」


 役人の声は本気だった。


 この村は、

 指揮系統が見えない。


 命令する者もいない。


 なのに。


 畑は整い、

 家は増え、

 道は広がっている。


 エルナは周囲を見渡した。


「ほら」


 指差す。


 セラが薪を運んでいる。


 リィナが洗濯物を干している。


 老人が椅子を修理している。


「誰も命令してません」


「それは分かる」


「でも、誰もサボってない」


 役人は言葉を失う。


 普通は逆だ。


 命令がなければ、

 人は動かない。


 だから貴族がいて、

 騎士がいて、

 兵士がいる。


 社会は、

 そうやって動く。


 それが常識だった。


 だが――


 この村は違う。


 その時、

 セラが薪を置いて言った。


「役割ってさ」


 役人が振り向く。


「そんなに必要か?」


「……必要だ」


 即答だった。


「人には適性がある。

 兵士、商人、農民」


「うん」


「それを決めなければ、

 社会は崩壊する」


 セラは少し笑った。


「決めてないよ」


 薪を割る。


「剣は使えるけど、

 今日は畑」


 斧を振る。


「明日は釣りかもしれない」


 役人は理解できない顔をする。


「そんな気まぐれで……」


「でも回ってる」


 セラは肩をすくめた。


 それが全てだった。


 役人は村を見渡す。


 子供たちが走っている。


 誰も監視していない。


 だが、危険なことはしない。


 大人たちは働いている。


 誰も強制していない。


 だが、止まらない。


 理解できない。


 理屈が通らない。


 その時。


 役人の懐の小さな水晶が、

 かすかに光った。


 彼は気づかない。


 だが。


 レオンは気づいた。


 視界の端に、

 見慣れた文字が浮かぶ。


 【観測対象:グレイウッド】


 【社会構造解析中】


 【役割依存度:極低】


 【分類:異常】


 レオンは目を細めた。


(やっぱりな)


 この村は、

 世界にとって正常ではない。


 人には役割がある。


 王子。


 聖女。


 騎士。


 農民。


 それぞれの場所があり、

 それぞれの物語がある。


 それが――

 この世界の前提だ。


 だが。


 この村には、

 それがない。


 セラは剣士だが、

 農民でもある。


 エルナは領主の娘だが、

 ただの住人でもある。


 リィナは元奴隷だが、

 今は何者でもない。


 そして。


 レオンは――


 悪役令嬢のはずだった。


 役人はまだ混乱している。


「……理解できない」


 小さく呟いた。


 その時、

 老人が笑った。


「簡単だよ」


 役人が顔を上げる。


「ここには、

 役割がない」


 少し間を置いて。


「あるのは、

 人だけだ」


 風が吹いた。


 静かな村。


 誰も英雄じゃない。


 誰も悪役じゃない。


 ただ、生きている。


 その瞬間。


 レオンの視界のUIが、

 強く点滅した。


 【警告】


 【重大構造異常】


 【役割拒否集団を確認】


 【世界整合性:低下】


 表示は、

 さらに続く。


 【物語進行阻害要因】


 【対象指定】


 ゆっくりと、

 名前が浮かび上がる。


 【レオン】


 レオンは空を見上げた。


 何もない青空。


 だが、

 世界の向こう側で

 何かが決定されつつある。


「……なるほど」


 静かに呟く。


「俺たち、

 バグらしい」


 村では、

 いつも通りの一日が続いていた。


 だが。


 世界の側から見れば――


 ここはもう、

 修正対象だった。

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