第69話:雨の日
朝から、雨だった。
強くはない。
だが止む気配もない。
空は低く、
雲は重なり、
村全体が薄い膜に包まれているようだった。
レオンは、
外を見て――
何もしないことを選ぶ。
(畑は無理だな)
土はぬかるみ、
踏めば荒れる。
家づくりも、
木が濡れている。
釣りも、
川が荒れている。
できない理由は、
いくらでもあった。
以前の自分なら、
焦っていた。
「今日何もできない」
=
「今日の価値がない」
そんな式が、
頭の中に勝手に浮かんでいた。
だが今は。
レオンは、
腰を下ろす。
火を弱め、
湯を温める。
雨音が、
一定のリズムで
屋根を叩く。
セラは、
珍しく外に出ない。
剣も触らない。
壁にもたれ、
目を閉じている。
リィナは、
窓の外を見ている。
何かを待っているわけでもない。
ただ、
雨を見ている。
エルナは、
帳面を閉じたまま。
考え事をしているようで、
していないようでもあった。
誰も、
「何をするか」を
決めようとしない。
沈黙。
だが、
気まずさはない。
雨の日は、
そういう日だ。
動かない。
進まない。
成果が出ない。
それでいい。
レオンは、
湯を啜る。
味は薄い。
だが、
体に染みる。
(……今日は、
何も起きないな)
そう思って、
ふと笑いそうになる。
昔なら、
それは最悪の評価だった。
「何も起きない」
=
「失敗」
今は違う。
何も起きないという事実が、
そのまま、
安心に直結している。
UIを、
見ようとしない。
警告も、
数値も、
今日は必要ない。
雨音が、
すべてを均していく。
焦りも、
期待も、
役割も。
昼になっても、
雨は止まない。
だが、
誰も困らない。
腹が減ったら食べる。
眠くなったら横になる。
それだけだ。
夕方。
空は少しだけ明るくなる。
それでも、
外には出ない。
今日は、
ここまで。
夜。
雨音は、
子守歌のようだった。
レオンは、
目を閉じる。
(……何もできない日、
ってのも悪くないな)
誰にも、
責められない。
自分にも、
責められない。
雨の日は、
そういう日だ。
何もできない。
それでいい。
それを、
初めて
本心から思えた夜だった。




