第67話:UIの微かな警告
夜明け前。
レオンは、
理由もなく目を覚ました。
夢は見ていない。
悪夢でもない。
ただ、
胸の奥に小さな引っかかりがあった。
(……今の、なんだ?)
寝返りを打ち、
天井を見る。
暗い。
静かだ。
外から聞こえるのは、
風の音と、
遠くの虫の声だけ。
異常はない。
――はずだった。
視界の端。
ほんの一瞬、
光が走った。
(……?)
レオンは、
反射的に瞬きをする。
だが、
もう何もない。
気のせい。
そう思おうとして――
やめた。
この世界で、
「気のせい」は
一度も無害だったことがない。
意識を、
内側に向ける。
UIを“見る”。
本来、
自分から探さなければ
姿を見せないもの。
薄く、
ほとんど透明な情報層。
そこに。
一項目だけ、
存在しないはずの表示が
残像のように揺れていた。
【―――補正値】
文字は、
最後まで表示されていない。
数値もない。
バーもない。
ただ、
項目名だけが
一瞬だけ、
灯った。
(補正……?)
学園時代を、
思い出す。
行動が歪められた感覚。
善意が悪意に変換された日々。
世界が、
“物語としての安定”を
優先していた証拠。
あれは、
確かに存在していた。
だが今は。
グレイウッドでは、
その手応えは消えていた。
だからこそ、
忘れかけていた。
――世界は、
何も諦めていない。
項目は、
完全に消える。
UIは沈黙する。
まるで、
「今のは見間違いだ」と
言わんばかりに。
レオンは、
息を吐く。
(……まだ、
こっちを見てるか)
恐怖はない。
怒りも、
湧いてこない。
ただ、
確認しただけだ。
この平穏は、
世界にとって
“想定外”である可能性。
そして。
想定外は、
いつか修正される。
それでも――
レオンは、
布団から起き上がらない。
立ち向かう準備もしない。
対策を練ることもしない。
(来るなら、
来ればいい)
かつての自分なら、
身構えただろう。
必死に、
正解を探しただろう。
だが今は違う。
ここには、
守るべき“役割”がない。
果たすべき
物語もない。
あるのは、
今日という一日と、
自分の選択だけだ。
やがて、
空が白み始める。
朝が来る。
セラは起きて剣を研ぐだろう。
リィナは畑に出るだろう。
エルナは帳面を眺めて、
ため息をつくかもしれない。
いつも通りの朝。
その中で、
UIは沈黙を保つ。
だが。
レオンは、
もう分かっていた。
この世界は、
まだ終わっていない。
そして――
自分も、
もう逃げるつもりはない。
警告は、
微かだった。
だが、
確かに灯った。
それだけで、
十分だった。




