第66話:レオンの違和感
静かすぎる。
それが、
レオンの最初の感想だった。
朝は来る。
畑に出れば土は湿っている。
火を起こせば、ちゃんと燃える。
誰も怒鳴らない。
誰も命じない。
誰も期待しない。
――平穏すぎる。
(……おかしいな)
レオンは、
薪を割りながら思う。
こんな状態は、
今までなかった。
世界はいつも、
「次」を用意していた。
課題。
試練。
対立。
イベント。
平穏は、
次の理不尽への助走だった。
なのに。
ここでは、
何も起きない。
一日が終わり、
次の日が来る。
それだけだ。
UIを、
意識的に探す。
視界の端。
数値。
警告。
――何もない。
完全に消えたわけじゃない。
だが、
主張してこない。
(嵐の前の静けさ、
ってやつか?)
そう考えてみるが、
腑に落ちない。
嵐が来るなら、
兆候があるはずだ。
不自然な補正。
好感度の急変。
役割の強制。
どれも、
起きていない。
セラは剣を振らない。
リィナは命令を待たない。
エルナは指示を出さない。
それでも、
生活は回る。
むしろ、
前より安定している。
昼。
簡単な食事を囲み、
会話は少ない。
沈黙が、
気まずくない。
レオンは、
ふと気づく。
(……壊れないんだな)
これだけ自由で、
これだけ曖昧で、
これだけ無秩序なのに。
世界は、
崩壊していない。
誰かが暴走するわけでもない。
怠け者が全てを壊すわけでもない。
むしろ――
皆、
少しずつ「自分の分」を
やっている。
夕方。
村の端に立ち、
空を見る。
赤い。
きれいだ。
昔なら、
ここで何かが起きた。
襲撃。
トラブル。
イベントフラグ。
だが、
何も起きない。
夜。
火を落とし、
眠りにつく。
心拍は、
穏やかだ。
(……本当に、
これでいいのか?)
違和感は、
消えない。
だがそれは、
不安とは少し違う。
長く縛られていた鎖が、
外れたあとに残る
感触に似ていた。
軽い。
自由だ。
でも、
どこか心許ない。
世界が壊れないことが、
逆に不安。
それでも――
翌朝は来る。
誰にも起こされず、
誰にも責められず。
レオンは、
目を開ける。
(……まだ、
大丈夫か)
そう思えること自体が、
昔の自分なら
ありえなかった。
平穏すぎる。
それでも、
壊れない。
その事実が、
ゆっくりと、
レオンの中に
染み込んでいった。




