第60話:畑の拡張
朝。
村の外れで、
新しい畑の予定地が決まった。
――といっても、
正式な決定ではない。
「ここ、
いけそうじゃない?」
誰かの一言。
それで、
皆が集まった。
地面は、
固い。
石も多い。
土は、
正直、良くない。
「……やめる?」
エルナが、
冗談めかして言う。
「いや」
レオンは、
鍬を入れた。
「試す」
理由は、
それだけ。
作業は、
思った以上に大変だった。
鍬が弾かれる。
石が出てくる。
根が絡む。
セラが、
石を運びながら言う。
「……畑、
向いてないな、ここ」
「そうだな」
否定しない。
それでも、
掘る。
元兵士が、
溝を掘る。
元流民が、
水を運ぶ。
リィナは、
小さな手で、
石を拾う。
昼。
半分も終わっていない。
エルナは、
土に腰を下ろした。
「……失敗じゃない?」
「かもな」
レオンは、
水を飲む。
「でも、
やってみないと、
わからない」
誰も、
責めない。
誰も、
後悔しない。
午後。
畝を作る。
曲がっている。
間隔もバラバラ。
種を蒔く。
深すぎるところ。
浅すぎるところ。
セラが、
苦笑する。
「……これは、
育たないな」
「かもな」
それでも、
手は止まらない。
夕方。
畑は、
畑らしい形になった。
成果は、
未知数。
期待値は、
低い。
だが――
皆、
疲れた顔で笑っていた。
「……楽しかった」
リィナが、
ぽつりと言う。
その言葉に、
エルナは驚く。
「失敗したのよ?」
「はい」
「なのに?」
「……怒られませんでした」
レオンは、
その会話を聞いて、
少しだけ目を伏せた。
(……そうか)
失敗が、
罰じゃない。
ここでは、
それだけで、
楽しいのか。
夜。
畑を見下ろす。
芽が出るかは、
わからない。
出なくても、
また耕せばいい。
レオンは、
静かに思う。
(畑も、
人生も、
同じだな)
正解なんて、
最初からない。
やってみて、
失敗して、
それでも、
生きていく。
畑の拡張は、
成功とは言えない。
だが、
この村には、
失敗を含めて、
楽しい時間が
確かに増えていた。
それで、
十分だった。




