第56話:料理回
昼前。
村の中央に、
妙な匂いが漂い始めた。
「……焦げてない?」
セラが眉をひそめる。
「でも、いい匂い……」
リィナが、鍋の方をじっと見ている。
原因は、
レオンだった。
彼は今、
即席のかまどの前で、
鍋をかき混ぜている。
動きはぎこちない。
手際がいいとは言い難い。
包丁の使い方も、
どこか慎重すぎる。
(……料理、慣れてないな)
セラは、
一目でそれと分かった。
「レオン、
手伝おうか?」
「大丈夫」
即答だった。
「今日は、
俺がやる」
理由はない。
気分でもない。
ただ――
やってみたくなった。
材料は、
畑で採れた野菜。
保存肉。
川魚。
豪華ではない。
味付けも、
計算されていない。
だが、
火加減だけは、
妙に丁寧だった。
鍋の中で、
具材がぐつぐつと音を立てる。
しばらくして、
レオンは鍋を下ろした。
「……多分、
食える」
「その基準なの?」
セラが苦笑する。
器に盛られ、
皆の前に並べられる。
見た目は――
正直、微妙だった。
形は崩れ、
色も地味。
「……いただきます」
エルナが、
半信半疑で口に運ぶ。
一瞬。
目を見開いた。
「……美味しい」
驚きが、
隠れていない。
セラも食べる。
「……ああ、
これは美味い」
リィナは、
恐る恐る一口。
次の瞬間、
黙々と食べ始めた。
止まらない。
レオンは、
その様子を見て、
少しだけ安心した。
「失敗じゃなかったか」
「失敗の基準、
低すぎでしょ」
エルナが笑う。
「でも、
不思議な味ね」
「派手じゃない」
「なのに、
落ち着く」
レオンは、
焚き火を見つめながら言った。
「腹が満ちれば、
それでいい」
「期待される味じゃない」
「評価される料理でもない」
セラが、
少し考えてから言う。
「……ここらしいな」
誰かを驚かせるためでも、
褒められるためでもない。
ただ、
今日を生きるための料理。
鍋は、
きれいに空になった。
リィナが、
小さく呟く。
「……また、
食べたいです」
レオンは、
少しだけ目を逸らした。
「気が向いたら」
その返事に、
誰も不満を言わない。
午後。
満腹感と、
穏やかな眠気。
村は、
静かな時間に包まれる。
誰かが作り、
誰かが食べ、
誰も評価しない。
それでいい。
その日、
レオンは思った。
(料理も……
悪くないな)
不格好でも、
美味ければいい。
生き方と、
よく似ていた。




