第49話:辺境に灯りが増える
夜が、少しだけ明るくなった。
と言っても、
王都の街灯のようなものじゃない。
焚き火が一つ。
簡易のランタンが二つ。
それだけだ。
だが――
闇の質が、変わった。
レオンは、火の位置を確認する。
家の前。
畑の端。
そして、森との境目。
どれも、ほんのりとした光だが、
完全な暗闇を、切り取っている。
セラが言った。
「夜でも、見えるな」
「足元くらいは」
それで十分だった。
以前は、
日が落ちると、
世界が途切れる感覚があった。
一歩先が見えず、
何かが来る気配だけが増幅される。
今は違う。
灯りのある場所までは、
「自分の領域」だと感じられる。
リィナは、ランタンを両手で持ち、
慎重に歩く。
夜でも、
震えは少ない。
光の輪の中なら、
呼吸が浅くならない。
「……大丈夫?」
セラが、念のため声をかける。
リィナは、小さく頷いた。
「……はい」
その返事に、
以前の硬さはなかった。
夜の作業は、最低限だけ。
水を汲み、
戸締まりを確認し、
火を管理する。
急がない。
無理もしない。
灯りがあるだけで、
心に余白が生まれる。
焚き火のそば。
レオンは、火を見つめながら思う。
(安心できる範囲が、
増えたんだ)
遠くは、まだ暗い。
森の奥は、見えない。
だが、
すべてを照らす必要はない。
セラは、剣を置き、
少しだけ姿勢を緩める。
「夜が、怖くなくなってきた」
「うん」
短いやり取り。
リィナは、焚き火の近くに座り、
光の中で、手を温める。
その横顔は、
少しだけ、柔らかい。
灯りが増えた。
それは、
武器でも、
結界でもない。
ただ、
「戻れる場所」が、
夜にも見えるようになった。
辺境の夜は、
まだ静かで、
まだ暗い。
それでも――
この場所は、
もう完全な闇ではなかった。




