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追放された悪役令嬢(♂)に転生した俺、チートを隠して辺境でスローライフするつもりが世界最適解になっていた件  作者: 南蛇井


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第46話:少しずつ笑う

 朝の空気は、冷えていた。


 焚き火を起こす音に、

 リィナは目を覚ます。


 いつもなら、

 すぐに体を起こし、

 指示を待つ。


 だが今日は――

 少しだけ、布の中で丸まったまま、

 音を聞いていた。


(……起きなきゃ)


 そう思うのに、

 体が、ほんの一瞬だけ動かない。


 それを「怠け」だと責める声が、

 今日は、少し小さい。


 外に出ると、

 朝食の準備ができていた。


 いつもと同じ、

 簡単なスープ。


 だが、リィナは――

 皿を渡されるのを待たなかった。


 自分から、一歩、近づく。


 その動きに、

 レオンは何も言わない。


 セラが、横目でそれを見る。


 リィナは、そっと腰を下ろした。


 許可を取らずに座る。

 それだけで、胸が少し苦しくなる。


(……怒られない)


 心の中で、何度も確認する。


 スープを口に運ぶ。


 温かい。


 昨日と同じ味。

 それなのに――

 なぜか、少しだけ美味しく感じた。


 その瞬間。


 リィナの口元が、

 ほんのわずかに緩んだ。


 自分でも気づかないほど、

 小さな変化。


 セラは、見逃さなかった。


「……今、笑ったな」


 指摘されて、

 リィナは、はっとする。


 慌てて口元を押さえ、

 俯く。


「す、すみません……」


 反射だった。


 レオンは、淡々と言う。


「謝ることじゃない」


 それだけ。


 リィナは、恐る恐る顔を上げる。


 誰も、怒っていない。


 スープをもう一口飲む。


 また、ほんの少しだけ、

 表情が緩む。


(……食べてる時だけ、

 安心できる)


 理由は分からない。


 命令も、選択も、

 考えなくていい時間。


 「美味しいかどうか」だけを、

 感じていればいい。


 昼も、夜も、

 劇的な変化はない。


 相変わらず、

 何をしていいかは分からない。


 それでも――

 食事の時だけ、

 肩の力が抜ける。


 夜、焚き火の前。


 リィナは、少しだけ近い場所に座った。


 誰も、何も言わない。


 ただ、火の音がある。


 笑顔は、すぐに消えた。


 だが確かに、

 そこに、あった。


 自由に慣れるには、

 まだ時間がかかる。


 それでも――

 小さな変化は、

 静かに、始まっていた。

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