表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された悪役令嬢(♂)に転生した俺、チートを隠して辺境でスローライフするつもりが世界最適解になっていた件  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/201

第44話:命令しない日々

 朝が来ても、

 リィナは動かなかった。


 正確には――

 動けなかった。


 目は覚めている。

 姿勢も正しい。

 だが、次に何をすればいいのか、

 分からずに立ち尽くしている。


 レオンは、水を汲みに行き、

 火を起こし、

 簡単な朝食を用意する。


 いつも通りの動作。


 リィナは、その一つ一つを、

 緊張した面持ちで見ていた。


(……まだ、命令が来ない)


 それが、彼女の中の不安だった。


 セラが、低く言う。


「何か言ってやらなくていいのか?」


「今は、いい」


 レオンは答える。


 食事ができても、

 呼ばない。


 片付けも、頼まない。


 リィナは、結局その場から動かず、

 何度も視線をこちらに向ける。


 怒られていないか。

 怠けていると思われていないか。


 レオンは、気づいている。


 それでも、教えない。


 昼。


 畑に出るレオンを見て、

 リィナは、意を決したように声を出す。


「あの……何か、

 することは……」


 言葉の途中で、

 声が小さくなる。


 レオンは、少し考えてから言った。


「特にない」


 即答。


 リィナの顔が、

 困惑で歪む。


「で、でも……」


「何かしたくなったら、

 言えばいい」


 それだけ。


 セラは、遠巻きに見ていた。


(優しいんだか、

 残酷なんだか)


 命令がないことが、

 これほど不安を生むとは。


 夕方。


 リィナは、ついにその場に座り込んだ。


 膝を抱え、

 視線を落とす。


「……怒られますか」


 小さな声。


 レオンは、首を横に振る。


「何を?」


「……何もしてないことを」


「しない日もあるって言っただろ」


 淡々と。


 だが、その言葉は、

 リィナの中で、

 すぐには形にならない。


 彼女は、

 働かない自分に、

 価値を見出せない。


 夜。


 焚き火の前。


 リィナは、少し離れた場所で、

 膝を抱えている。


 レオンは、声をかけない。


 「手伝え」も、

 「休め」も、

 言わない。


 ただ、

 同じ場所にいる。


 それだけ。


 やがて、

 リィナの呼吸が、

 少しずつ、落ち着いていく。


(……命令されないまま、

 一日が終わる)


 それは、

 彼女にとって、

 初めての経験だった。


 怖い。

 分からない。

 でも――


 怒られていない。


 殴られていない。


 捨てられてもいない。


 レオンは、焚き火を見ながら思う。


(教えないのは、

 突き放すためじゃない)


 自分で選ぶ余白を、

 奪わないためだ。


 夜は静かに更けていく。


 命令のない一日は、

 不安と一緒に――

 確かに、終わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ