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追放された悪役令嬢(♂)に転生した俺、チートを隠して辺境でスローライフするつもりが世界最適解になっていた件  作者: 南蛇井


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第43話:リィナ保護

 リィナは、ずっと立ったままだった。


 座っていいとも、

 動いていいとも、

 誰も言っていない。


 焚き火のそば。

 温かいはずの場所で、

 彼女の肩は小刻みに震えている。


 レオンは、その様子を少し離れたところから見ていた。


(……待ってるな)


 命令を。


 「座れ」

 「食べろ」

 「眠れ」


 そう言われるのを。


 セラが、低い声で言った。


「……慣れてる反応じゃないな」


「うん」


 レオンは短く答える。


 リィナは、視線を落としたまま、

 ちらちらと二人の様子を伺っている。


 逃げる準備をしているわけでもない。

 逆に――

 “次の指示”が来るまで、

 動けない。


 レオンは、ゆっくりと近づいた。


 急に距離を詰めない。

 正面にも立たない。


 少し斜めから、

 声も抑えめに。


「……寒いか?」


 リィナの体が、びくりと跳ねた。


「い、いえ!

 大丈夫です!」


 即答。

 反射。


 その声色に、

 「本音」が含まれていないのが分かる。


 レオンは、焚き火のそばに木皿を置いた。


 簡単なスープ。

 いつもと同じ、質素なもの。


「飲んでいい」


 それだけ言って、

 一歩下がる。


 リィナは、すぐに手を伸ばさない。


 数秒。

 数十秒。


 視線が、皿とレオンを行き来する。


「……本当に?」


「うん」


「……条件は?」


 その言葉に、

 セラが眉をひそめた。


 だがレオンは、首を横に振る。


「ない」


「……仕事は?」


「今は、ない」


「……後で?」


「必要になったら、頼むかもしれない」


 “かもしれない”。


 曖昧な言い方。


 命令じゃない。


 リィナは、困惑したように唇を噛んだ。


 分からないのだ。

 何を期待されているのかが。


 レオンは、地面に腰を下ろす。


 同じ目線になるために。


「ここでは、

 勝手に動いていい」


 ゆっくり、言葉を選ぶ。


「黙っててもいいし、

 喋ってもいい」


「間違えても、

 怒られない」


 リィナの指が、わずかに震える。


「……何もしなかったら?」


 小さな声。


 レオンは、即答しなかった。


 少し考えてから、言う。


「何もしない日も、ある」


 それだけ。


 リィナは、目を見開いた。


 その発想自体が、

 彼女の中には存在していなかった。


 やがて、恐る恐る皿に手を伸ばす。


 飲む前に、

 一度だけこちらを見る。


 許可を確認する癖。


 レオンは、何も言わない。


 頷きもしない。


 ただ、

 視線を外す。


 ――数秒後。


 スープを飲む音がした。


 ほんの一口。


 だが、それだけで、

 リィナの呼吸が少し落ち着いた。


 セラが、低く呟く。


「時間がかかるな」


「急がない」


 レオンは答える。


「命令待ちの癖は、

 生き延びるために身につけたものだ」


 悪い癖じゃない。

 捨てる必要も、すぐにはない。


 焚き火が、静かに燃える。


 リィナは、少しずつ、

 スープを飲み進めていた。


 まだ、怯えは消えていない。


 それでも――

 ここでは、

 “次の命令”は、来ない。


 その事実に、

 彼女の世界は、

 ほんの少しだけ、揺らぎ始めていた。

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