第42話:選択
男たちは、三人だった。
粗末な革鎧。
刃こぼれした剣と、縄。
「いたぞ!」
声が上がる。
リィナの体が、びくりと震えた。
反射的に後ずさりするが、足がもつれて動けない。
レオンは、前に出なかった。
正義の味方みたいに立ち塞がる気も、
説教じみた言葉を吐く気もない。
(……違う)
これは、
「助けるべきだから」じゃない。
「正しいから」でもない。
ただ――
目の前で、起きているからだ。
セラが一歩、前に出る。
「ここから先は通さない」
声は低く、感情がない。
男の一人が、鼻で笑った。
「何だ?
剣士一人と、百姓か?」
レオンは、少しだけ眉をひそめた。
(百姓扱いか。まあ、いい)
セラが剣を抜く。
それだけで、空気が変わった。
「……面倒だな」
男たちの声色が、僅かに変わる。
レオンは、生活魔法を起動する。
地面の水分を集め、足元をぬかるませる。
派手な魔法じゃない。
殺す力もない。
ただ、
「近づきにくくする」だけ。
「チッ……!」
男の一人が足を取られ、体勢を崩す。
セラは、深追いしない。
剣を振るうのは、牽制だけ。
「これ以上来るなら、
命の保証はしない」
淡々と告げる。
数秒の沈黙。
男たちは、互いに顔を見合わせ――
舌打ちして、後退した。
「覚えてろよ」
捨て台詞だけを残し、
森の奥へ消えていく。
静寂が、戻る。
リィナは、地面に座り込んだまま、
呆然としていた。
「……助けて、くれたの?」
震える声。
レオンは、少し考えてから答える。
「結果的には」
それ以上、何も言わない。
感謝を求めるつもりも、
恩を着せるつもりもない。
セラが、リィナの足首を見る。
「外せるか?」
リィナは、首を横に振った。
「鍵……あの人たちが……」
セラは剣で鎖を断ち切る。
金属音が、短く響いた。
リィナは、輪の外れた足首を見て、
ようやく実感したように息を吐く。
「……どうして?」
リィナが、レオンを見る。
「正義感?
それとも……」
レオンは、首を横に振った。
「違う」
一拍置いて、続ける。
「放っておけなかっただけだ」
それ以上でも、以下でもない。
リィナは、言葉を失う。
救われた、というより――
選ばれた、でもない。
ただ、
見捨てられなかった。
それだけの事実が、
胸に残った。
レオンは、空を見上げる。
(……これも、役割じゃない)
誰かに決められた行動じゃない。
自分で選んだ。
その感覚が、
小さく、だが確かに残っていた。
セラが言う。
「で、どうする?」
レオンは、リィナを見る。
「……しばらく、ここにいるか?」
問いかけは、命令じゃない。
選択肢を、置いただけ。
リィナは、何度も瞬きをし――
小さく、頷いた。
その瞬間、
この辺境に、もう一人分の居場所が増えた。
理由は、正義じゃない。
英雄譚でもない。
ただ――
放っておけなかったから。
それだけだった。




