第114話:竜族移住
グレイウッドの空。
青い空を、大きな影が横切った。
ゴオオオオオ……
風が巻き起こる。
市場にいた人々が空を見上げた。
「おい」
「まさか」
「竜?」
巨大な翼。
長い尾。
空を飛ぶ影は――
竜。
それも一体ではない。
二体。
三体。
四体。
次々と空を横切る。
子どもたちは目を輝かせる。
「すげえ!」
だが大人たちは固まっていた。
普通なら。
竜が街に来る。
それは――
災害。
だが。
竜たちは攻撃しない。
ゆっくりと高度を下げる。
街の外。
平地へ降りた。
ドン……
巨大な体が地面に着地する。
土煙が舞う。
そこにいたのは数体の竜。
そして。
一体の古竜。
体は山のように大きい。
黄金の瞳。
圧倒的な存在感。
人々は息を呑む。
その前に――
一人の男が歩いてきた。
レオン。
パンを食べながら。
セラが慌てる。
「おい!」
「危ない!」
レオン
「大丈夫」
普通に近づく。
古竜がその姿を見る。
静かに口を開いた。
低い声。
大地が震えるような声。
「……お前が」
少し間。
「レオンか」
レオン
「そう」
短い会話。
周囲は凍りついている。
古竜はしばらくレオンを見る。
観察するように。
そして。
ゆっくり言った。
「我らは見ていた」
空から。
ずっと。
この街を。
人間。
獣人。
魔族。
共に暮らす街。
戦いのない場所。
それは竜族にとっても珍しいものだった。
古竜は続ける。
「ここは」
静かに言う。
「面白い」
レオン
「そう」
古竜は少し笑った。
「だから」
翼を軽く広げる。
「住む」
沈黙。
市場の人間たちが固まる。
セラが言う。
「え?」
古竜ははっきり言った。
「竜族は」
「この地に移住する」
ざわめき。
獣人たちも驚く。
魔族も目を見開く。
ラザールが笑う。
「……ついに来たか」
レオンは少し考える。
本当に少し。
そして言う。
「いいよ」
セラが叫ぶ。
「軽い!」
竜族の青年が笑う。
「やっぱりな」
古竜はゆっくり頷いた。
こうして。
グレイウッドには――
竜族が正式に住むことになった。
人間。
獣人。
魔族。
竜族。
すべての種族が暮らす都市。
それはもう。
ただの街ではなかった。
グレイウッドは――
世界で唯一の都市になりつつあった。




