第110話:ラザールの確信
グレイウッドの丘。
街を見下ろせる場所。
そこにラザールは立っていた。
夕暮れ。
街に灯りが灯り始める。
魔導灯の光が通りを照らし、人々が行き交う。
市場ではまだ声が響いている。
「銀貨二枚だ!」
「高い!」
「じゃあ一枚半!」
笑い声。
交渉。
活気。
ラザールは腕を組みながら、それを見ていた。
「……増えたな」
横にいた部下が言う。
「人口、三倍です」
「商人もさらに来ています」
「魔族領との交易も始まりました」
ラザールは小さく笑う。
「だろうな」
この街は止まらない。
商人の勘が告げていた。
ここは。
金の匂いがする。
それも桁違いの。
通りを見る。
人間が歩く。
その隣を獣人が通る。
魔族が店を覗く。
屋根の上では竜族が寝ている。
普通なら。
成立しない光景。
歴史的に見ても、前例はない。
だが。
この街では普通だった。
理由は単純。
皆。
生活しているからだ。
仕事がある。
食べ物がある。
水がある。
だから争う理由がない。
ラザールは呟く。
「恐ろしいな」
部下が聞く。
「何がです?」
ラザールは街を指差した。
「これ」
静かに言う。
「全部」
市場。
畑。
水路。
魔導灯。
街のインフラのほとんどは――
一人の男が作った。
レオン。
部下が言う。
「彼、今何してるんです?」
ラザールは少し考える。
そして答えた。
「たぶん」
遠くを見る。
街の外れ。
工房の煙。
「昼寝か畑」
部下は苦笑した。
「世界を変えてる人間の生活じゃないですね」
ラザールも笑う。
「そうだな」
少し沈黙。
風が吹く。
街の灯りが増える。
ラザールの目が鋭くなる。
商人の目だった。
数字を見る目。
流れを見る目。
未来を見る目。
そして。
確信する。
ラザールは静かに言った。
「この街は」
部下が顔を上げる。
ラザールは続けた。
「国になる」
部下が固まる。
「国……?」
ラザールは頷く。
「人口が増える」
「交易が増える」
「技術が集まる」
そして。
少し笑う。
「王国より強くなる」
冗談ではなかった。
むしろ。
可能性は高い。
部下は街を見る。
確かに。
ただの街ではない。
人間。
獣人。
魔族。
竜族。
多種族が集まり、技術が生まれ、商人が集まる場所。
そんな都市は世界にない。
ラザールはもう一度言った。
「この街は」
夕暮れのグレイウッドを見ながら。
はっきりと。
「国になる」
そしてその中心にいるのは――
畑で昼寝している男だった。




