第108話:王子の焦り
王城。
夜。
重い扉が勢いよく開いた。
「なぜだ!」
怒鳴り声が廊下に響く。
王子アルバートだった。
金の髪は乱れ、目には焦りが浮かんでいる。
部屋の中には、宰相と数人の貴族がいた。
誰もすぐには答えない。
王子は机を叩く。
ドンッ!
「なぜうまくいかない!」
書類が散らばる。
そこには報告が並んでいた。
・食糧不足
・魔物増加
・研究院停滞
・王都暴動
どれも最悪の内容だった。
王子は言う。
「兵を増やした!」
「魔物討伐も強化した!」
「税も調整した!」
それでも。
状況は悪くなる一方だった。
王子は叫ぶ。
「なぜだ!」
沈黙。
やがて宰相が静かに言う。
「原因は一つではありません」
王子
「分かっている!」
「だが改善しない!」
宰相は資料を見せる。
「最近、商人が王都を避けています」
王子は顔をしかめる。
「またその話か」
宰相
「はい」
資料を指差す。
「交易の流れが変わっています」
矢印は王都を通っていない。
代わりに向かっている場所があった。
グレイウッド。
王子の顔が歪む。
「辺境の街だろう!」
宰相
「急成長しています」
「商人、亜人、魔族まで集まっているそうです」
王子は信じられない顔をする。
「魔族?」
宰相は頷く。
「共存していると」
王子は椅子から立ち上がる。
「馬鹿な!」
ありえない。
人間と魔族は敵だ。
それが常識。
だが。
報告は何通も来ていた。
王子は苛立って言う。
「どうしてそんな街が出来る!」
誰も答えない。
だが。
皆の頭の中には、同じ名前が浮かんでいた。
王子も気づいていた。
言いたくないだけだった。
王子は呟く。
「……レオン」
その名前を口にした瞬間。
部屋の空気が変わる。
王子は拳を握る。
「違う」
まるで否定するように。
「関係ない」
「ただの辺境の技師だ」
誰も反論しない。
だが。
誰も同意もしない。
王子は窓へ歩く。
夜の王都。
遠くで煙が上がっている。
また暴動だ。
王子は歯を食いしばる。
「私は間違っていない」
小さく言う。
「王国のためだった」
レオンを追放したのは。
秩序を守るため。
規則を守るため。
そう。
間違っていない。
だが。
それでも。
王子の胸の奥で。
小さな疑問が生まれていた。
もし。
もしあの時。
レオンを追い出していなかったら。
王国は――
どうなっていただろうか。
王子は窓の外を見つめる。
そしてもう一度叫んだ。
「なぜだ!」
だがその問いに答える者は
誰もいなかった。




