第106話:王国の衰退
王都。
かつては王国最大の繁栄を誇った都市。
石造りの街並み。
巨大な城壁。
華やかな貴族の館。
だが今――
その街は、どこか歪んでいた。
市場。
人が押し合い、怒鳴り声が響いている。
「高すぎる!」
「ふざけるな!」
商人が叫び返す。
「俺だって仕入れが高いんだ!」
机の上には袋に入った小麦。
その値段を見て、人々の顔が青ざめていた。
去年の三倍。
庶民にはほとんど買えない。
女が震える声で言う。
「子どもがいるのよ……」
商人は目をそらす。
「知らん」
後ろで男が怒鳴った。
「ふざけるな!」
拳が机を叩く。
袋が落ちる。
小麦が床に散らばる。
一瞬。
沈黙。
そして――
人々が飛びついた。
「俺のだ!」
「どけ!」
「離せ!」
奪い合い。
押し合い。
悲鳴。
市場は一瞬で混乱に変わった。
その頃。
王城。
大理石の会議室。
貴族たちが集まっていた。
だが空気は重い。
「食糧が足りません」
宰相が言う。
「各地の収穫が減っています」
貴族の一人が机を叩く。
「なぜだ!」
別の貴族が答える。
「魔物です」
最近、魔物の数が増えている。
畑が荒らされる。
農民が逃げる。
収穫が減る。
悪循環だった。
さらに。
宰相が続ける。
「商人が物資を他国へ流しています」
「利益が高いそうです」
貴族が怒鳴る。
「止めろ!」
宰相は静かに言った。
「止まりません」
理由は簡単だった。
他国の方が高く買う。
そして。
最近は特に。
宰相は資料を置く。
そこには報告が書かれていた。
辺境都市グレイウッド。
貴族が眉をひそめる。
「またそこか」
宰相は頷く。
「物資の流れが変わっています」
「商人が王都を通らない」
「直接そこへ向かう」
別の貴族が言う。
「辺境の村だろう!」
宰相は答える。
「もう違います」
沈黙。
誰も言葉を返せない。
王都の外。
街門の近く。
人々が集まっていた。
怒りの声。
「食べ物をよこせ!」
「貴族だけ食ってる!」
石が投げられる。
兵士が盾を構える。
指揮官が叫ぶ。
「下がれ!」
だが止まらない。
ついに。
石が兵士の兜に当たった。
その瞬間。
剣が抜かれる。
悲鳴。
混乱。
そして――
暴動が始まった。
夜。
王都の空が赤く染まる。
どこかで火が上がっている。
城の塔からそれを見ている男がいた。
王子アルバート。
彼は静かに呟いた。
「……どうしてこうなった」
かつて。
王国は安定していた。
だが今は違う。
食糧不足。
魔物増加。
暴動。
そして。
遠くの辺境では――
街が成長している。
アルバートは空を見る。
誰も言わない。
だが皆、心の奥で思っている。
もし。
もしあの男が――
レオンがまだ王都にいたなら。
王国は
ここまで崩れていただろうか。
答えは。
もう誰にも分からなかった。




